第3話 動画投稿サイト

 タイなどで販売されているカブトガニは食べるように調理すれば食べられるが、実はそのままでは有毒で、その毒性は青酸カリの850倍はあるらしい。では、日本で食べられている毒のあるものといえば何があるだろうと考えたときに、すぐに浮かぶのがフグだろう。ぷくぷくとふわふわと浮かんでいる河に豚と書くあのフグだ。調理には免許が必要とされるほど、その毒の扱いには慎重さが求められる。他にはトマトの葉にも毒があるらしい。これはトマトだけでなくナス科に多いのだとか。グリコアルカロイドっていうらしい。また、ビワの種子からはシアン化合物、じゃがいもの芽にはソラニン、タピオカの原料キャッサバにもシアン化合物などなど、身近な食べ物には多くの毒性を持つものが多いことがこれらの上げた例からわかると思う。これには実に気をつけなければいけないし、正しい知識を持たなければその毒の餌食になることは造作もないだろう。そう、正しい知識を持たないで使用すれば相手だけでなく使用者の自分にも牙を向くのが毒というもの。身近であればあるほどその存在に対する危機意識は薄れ、知っているだけの知識はお飾りの鎧兜に成り下がる。正しく知り、知識として蓄え、己のものへと博し、自らの意志で意識を持って使用しなければその身近なものは毒になり、自分へと降りかかることになる。ただ毒を吐くだけならば、と思っていると痛い目に遭うということだ。毒を吐くだけと言っても、それは己の毒を扱っているのだという自覚がなければ、周囲だけでなく己にもその毒を浴びているのだという事実に気が付かないまま過ごすことになる。それは負傷して、怪我して、骨を折ってるのにまるで気が付かないで普通に街を歩くようなものである。実に無様ぶざまだ。実に滑稽だ。だから、それだけ毒は丁寧に扱わなければいけない。それはどんな場所でも。現実でも、空想でも、インターネット上でのやり取りであっても。そこに人間が存在し、言葉を持ってやり取りしているというのならばどんなときでもだ。毒は毒だ。吐いても捨ててもこぼしても。自分以外の他人がいたのならそれは絶対なのだ。



「ーー以上、世間へ毒を吐くのコーナーでした〜。さて続いては……」




 インターネットラジオのとあるコーナーでリスナーからの不平不満を募り、お便りとして紹介していたのを聞いていた。とても共感できないコーナーだった。リスナーはあるあると頷きながら共感し、投稿者は皆に自分の不満を聞いてもらうことで満足する。そんなラジオの一つの何気ない、なんてことのないコーナーのひとつなのだが、私はさっぱり共感できなかったし、楽しくなかった。他人の愚痴など聞いていて不愉快でしかない。じゃあ、聞かなければいいじゃないかと思うかもしれないが、私が聞きたかったのはラジオのゲストとして呼ばれていた声優さんの声であり、そのラジオ番組をつけたのは否応なしになのである。仕方なしなのだ。声優さんもコメントを求められていたが、出たのは歯切りの悪い言葉の端切ればかり。無理もない。そんなコーナーにコメントなんて付けようがなかろう。うんうん、わかるわかる。声優さんも大変だなぁ。私はそんなことを思いながらラジオを聞いていた。目の前には自分のパソコンのモニター。表示されているのは無名無職の掲示板。書き込んだ内容は次の通り。



〉〉柳小町イチゴについて誰かなにか知ってる人求む



 返信は次の通り。



〉柳小町イチゴ?

〉だれそれ

〉ノブさんからの依頼! ノブさん好きです!

〉同じ人かはわからないけど、イチゴの名前でフォトスタやってる垢見つけたンゴ→URL



 フォトスタ……。フォトスタか……。



 フォトスタはフォトスタグラムという、写真や絵が主体のエスエヌエスだ。写真が主役なことだけあって自分のことを撮影してフォトスタに上げている人が数多くいる。他にはペットの写真、風景・絶景の写真、おもしろ写真、トリックアート、不思議な写真、人気スイーツ店のケーキの写真、自分の写真、画像加工アプリで加工した自分の写真などなど。ちなみにわたしはやっていない。流行りには疎いのだ。



 イチゴという名前のアカウントには自分を撮影した写真がいくつも載っていた。自分が可愛く、世界一美しく、みんなにきれいで可愛くてキラキラしたありのままの自分を見てもらいたいがいっぱいの顔だった。なるほどこの可愛くて可愛らしい作り物のようなのがイチゴか。これが本当かどうか、その真偽はこれから見定める。



 写真の一つを拡大する。写真に写る電柱の張り紙から場所はすすきの繁華街のハズレあたりであることがわかる。インターネットのマップ写真と見比べれば、一目瞭然。写真の撮影場所は特定。さらに、撮影角度と見切れている自撮り棒ーー自分一人で自分を撮影するために、使用されるカメラの撮影ボタンを延長した棒の先にボタンがついている棒のことーーから鑑みるに撮影者は彼女自身であり、他に同行している人物はいないことがわかる。他の写真も自撮り棒によって撮影されたものばかり。ふむ。一人で行動していることが多かったのだろうか。



 彼女の顔写真をマウスでクリックしながら範囲を選択して覆い、そのまま画像検索。ヒット。歯科の受付スタッフにその顔が掲載されている。名前は奥村イチゴ。名字が異なるが、イチゴという名前は同じだ。顔と名前の一致から、彼女が柳町通イチゴであると推定できる。フォトスタのアカウントも彼女だろう。と、なると…………ヒット。彼女のツブヤキッター、フォトスタ、チックトックと、三つのエスエヌエスを特定。全てに同一人物が写っている。間違いない。よし、ここまで来たらあとは…………。



「最新の投稿は……これかな?」



 チックトックの動画。そこに写っていたのは私だった。

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