第49話


 準決勝、埼玉王蘭(おうらん)高等学校との戦い。この学校には196㎝超絶の壁と言われている11番佐野裕仁(さのゆうじん)と12番佐野裕斗(さのゆうと)の双子の壁を抜かなくてはならない。


 金井コーチも佐野兄弟の壁を警戒して、皆に注意を促した。


「11番と12番の双子の壁に注意しろ。今日の試合はあの双子の壁を越えないことには話しにならない。双子の動きを見て動くんだ。良いな」


「「「うっす!!」」」


 莉愛がスッと息を吸い込むと、皆が莉愛に視線を向ける。選手達が莉愛の前に跪くのを確認してから莉愛は口を開いた。


「双子の壁は狼栄と……大地と相性が悪いです。それでも私は信じています。皆が勝つと……。私に勝利を捧げてくれると。さあ行きなさい。私に勝利を捧げなさい!」


「「「仰せの通りに!」」」


 第一セット、赤尾からのトスに大地が飛びつきスパイクが炸裂する。しかしそれを双子の兄弟がブロックで阻む。さすがは双子の兄弟といった感じで、ブロックの他にも息の合ったプレイで、狼栄を翻弄してくる。


 ここで負ければ帰るのみ。


 私達はまだ上に、てっぺんにたどり着いてない。


 行ってみせる。


 その頂へ。


 赤尾からのサインに、大地が動きスパイクを打つ。



 が、しかし……。



「バンッ」


 双子のブロックに阻まれ、あっけなくボールが狼栄コートに転がった。何度大地がスパイクを打っても、全てのスパイクがブロックされる。まさに双子による超絶の壁。


 それでも大地は何度もスパイクを双子の壁に向かって叩き付ける。それでも崩すことの出来ない壁。大地にも崩せない超絶の壁に観客達から溜め息が漏れる。


「はぁー。狼栄このままだとやばくないか?」


「王蘭リードで23ー11か……」


 観客席から聞こえるのは落胆の声。


 


「ピピーー!!」


 第一セット終了のホイッスルが鳴り響く。第一セットを取ったのは埼玉王蘭高等学校だった。


「狼栄が第一セットを取られた……」


「25-11か……狼栄が11点しか取れないなんてな」


「狼栄ここで敗退か?まあ……良くやったよな?」


 ここで終わる?


 莉愛は奥歯を噛みしめた。


 ここで敗退……そんな事はさせない。


 この壁を崩してみせる。



 第二セット開始。


 第二セットが始まっても、双子の壁に狼栄は苦戦していた。第一セットほど点差は開いていないものの、厳しい状況が続いていた。そして気づけば第二セットも後半22-20で王蘭高校がリードしていた。


 あと3点取られれば私達の負けだ。このままでは双子の壁を突破することは出来ない。そろそろあれを試すとき。


 莉愛は金井コーチに目配せでタイムを入れる。


 自分たちのプレイをさせてもらえない苛立ちから、ベンチに帰って来る皆の顔が険しい。そんな選手達の顔を見た金井コーチが溜め息を付いた。


「お前達、落ち着け。何て顔をしてるんだ。双子の動きを見て動け。ここからだぞ」


「「「うっす!」」」


 しっかりと返事をした選手達だったが、困惑の色が顔に滲んでいる。そんな表情のまま莉愛に救いを求めるように、視線を向けてくる選手達。


 みんな捨てられた子犬みたいな顔をしているわね。


 莉愛は皆を安心させるため微笑んだ。


「そんな顔をしなくても大丈夫よ。大地あれをやってみてくれる?赤尾さんも良い?」


「そろそろだと思ってたよ」


 赤尾が嬉しそうに笑いながら言った。それを見た大地も口角を上げた。


「ああ……もう良いのか?」


「ええ、双子の超絶の壁、ぶち抜いてきなさい!」


 莉愛が腕を組み女王の威厳を振りまきながら笑うと、大地と赤尾が片膝を突き頭を垂れた。


「「女王の仰せの通りに」」


 *


 タイムが終わり選手達がコートに戻っていく。そして王蘭高校からサーブが放たれた。それを熊川がレシーブで上げ赤尾の元に、それを大地へと繋ぐ。第一セットと変わらない攻撃のように見えるが、今回の攻撃は今までのものとは全く違う。


「ズドンッ」


 大地の放ったスパイクが王蘭高校のコートに決まる。


 呆気に取られた双子は、自分たちの後ろに転がるボールを見つめた。


「あれ……?」


「何で……?」


 双子の当惑した声が聞こえてくる。


 そこからは「ズドンッ」「ズドンッ」と大地のスパイクが決まっていく。


 応援席から声援が飛ぶ。


「「狼栄ガンバーー!」」」


「すげー。また決まったぜ」


「何だよ、あの滞空時間」


 そう、観客の声から分かるように、双子対策として私達は滞空時間を利用した超絶の壁崩しを試みた。それは双子と一緒にジャンプしても滞空時間の違いから、双子の壁が崩れてから放たれるスパイク。このワザは普通の人がやろうとしても、実際にここまで長い滞空時間を保つことは難しい。普通の人間はどんなに高くジャンプしても重力に負けて着地してしまう。現に双子が大地の滞空時間に食らいつこうと必死になっているが、全く重力に逆らえずにいた。


 そして22-25、第二セットを取ったのは狼栄だった。



 迎える第三セット。


 さあ、ここで勝って私達は上に行くよ。


 大地が強烈なスパイクを王蘭高校のコートに叩き付ける。大地の空間を使ったスパイクの他、通常のスパイクなどを赤尾が匠に操り、ゲームメイクしていけば面白いように得点が入る。苦戦していた第一セットがウソのように、大地が生き生きとスパイクを打ち続ける。


「ズドンッ」


 大きな音を立ててボールが王蘭高校のコートに沈み、ホイッスルが鳴り響いた。


「第三セット18-25勝者狼栄高等学校」


「「「シャーー!!」」」


 準決勝を制したのは狼栄大学高等学校だった。










































































































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