第48話


 全日本バレーボール高等学校選手権大会、通称春高バレーが幕を開けた。


 第一回戦、愛媛県朝日商業高等学校との試合が始まる。狼栄の選手達はそんな中、金井コーチの話を真剣な面持ちで聞いていた。


「春高一回戦、朝日商業は本大会初出場でデータがほとんど無い。相手が初出場だからと油断するな。引き締めていけ」


「「「うっす!!」」」


 その様子を莉愛も同じく真剣な面持ちで聞いていた。金井コーチの話が終わり皆がコートに向かうと思いきや、皆が莉愛に強い視線を向けた。それは何かを期待している目で……。


 何?


 皆の視線にたじろいでいると、莉愛の前で狼栄の選手達が右膝をつき跪いた。


 まっ……まさか、ここでもするの?


 驚き固まる莉愛に、大地が口角を上げた。


「犬崎の皆には了承を得ている。あいつらの分も勝ちたい。莉愛、勝利のルーティンを」


 大地や犬崎のみんなの願いならやるしかないか。金井コーチも楽しそうに頷いているし。


 分かったわよ。


 今回もなってやるわよ女王様に!


 莉愛は髪をほどきジャージを脱ぐと、それをマントのように肩に掛け、クイッと顎を上げ妖艶に微笑んだ。女王スイッチの入った莉愛を間近で見つめ、狼栄の選手達の背中にゾクゾクとしたものが走る。


「分かりました。私達犬崎の分まであなた達に託します。そして一回戦で負けるなんて県代表の名折れ、分かっているわね。勝って帰って来なさい。ここで負けることは許さない。勝ちなさい。そして私に勝利を捧げなさい!」


「「「仰せの通りに」」」


 そう言って女王に頭を垂れる選手達。その様子を見ていた人々が驚き、東京体育館にどよめきが広がったのだった。


 *


 どよめきの収まらない中、審判のホイッスルで試合が開始する。最初にサーブ権を得たのは狼栄大学高等学校だった。いつも無表情な尾形壮のジャンプサーブが、朝日商業のコート目掛けて飛んでいった。


「バシンッ」


 サービスエース!


「ナイスサー」


 まずは一点。


 それから尾形がもう一度ジャンプサーブを繰り出した。しかしそれは朝日商業のリベロが綺麗に上げた。それをセッターがトスで上げ、朝日商業のエース宮内へと繋がる。アタックラインの後方から宮内が狼栄コートに向かってボールを打ち込んできた。それは狼栄のコートに沈んでしまう。やはり春高、県の代表としてこの舞台に立っている人達だ。一筋縄ではいかない。簡単に勝たせてもらえるわけがないのだ。それでも私達が上に行く。


 楽しそうにボールを上げる狼栄の選手達。


 そして最後に決めるのは大地だ。


「ズドンッ」


 大きな音を立てて、ボールが相手チームのコートに転がっていった。


 一回戦、第一セット25-21、第二セット25-19で狼栄大学高等学校が勝利した。


 それからは危なげなく狼栄が勝利していく。一回戦、二回戦、三回戦と突破し、四回戦準々決勝へとコマを進めた。


 そして四回戦準々決勝の相手は東京都青藍(せいあい)高等学校。試合の前に金井コーチの前に選手達が集まる。


「やっと準々決勝だ。気を抜くな。お前らの努力は俺が一番知っている。必ず笑顔で帰ってこい」


「「「うっす!!」」」 


 金井コーチの話が終わり、莉愛が一歩前に出る。


「ここまであっという間に駆け上がって来てしまったけど、気を抜いてはダメよ。ここからが本当の勝負。4番セッターの鷲野(わしの)の頭のキレは計り知れないわ。今回の試合は頭脳戦になることは必須。赤尾さん、今日の試合はあなたにかかっています。見せてくれるわね」


 莉愛がそう言うと、赤尾が頷き頭を垂れる。


「女王の仰せの通りに」


 赤尾の言葉に莉愛が嬉しそうに口角を上げると、不敵に笑った。


「さあ行きなさい。そして私に勝利を捧げなさい!」


「「「仰せの通りに」」」



 第一セット、青藍の鷲野がトスを上げる。徹底的にこちらの研究をしてきたのだろう。狼栄の意表を突くようなトスを上げ得点していく。鷲野は小馬鹿にして様に狼栄の選手達を左右へ振り回し、体力をすり減らしていく。思うように動くことの出来ない大地が焦りを見せた。


 そんな大地を見て鷲野が口角を上げ、それをワザとこちらに見せる。こちらを挑発しているのだろう。


 第一セット23-16青藍のリード。


 ダメ!ここで焦っては相手の思うつぼだ。


 ここで金井コーチがタイムを入れる。


「随分鷲野の策略にはまっているな。赤尾周りをよく見ろ、大地を活かせ。こちらは早さで勝負を賭けるぞ」


「「「うっす!」」」


 莉愛が書き留めていたノートから顔を上げた。


「鷲野は頭が切れるので、その上を行かなくてはダメです。スピードのある攻撃で鷲野の考える隙を与えないで。赤尾さんカギはあなたです」


 ここから狼栄の反撃が始まった。


 赤尾と大地の見事なコンビネーションの他、安齋の手足を活かしたブロック。ミドルブロッカーの大澤が左右にコートを走り回り、鷲野を翻弄した。ここで青藍の形が少しずつ崩れていく。


 いける!


 24-26ものすごい勢いで追い上げた狼栄が第一セットを奪い取った。



「シャーー!」



 雄叫びを上げたのは赤尾だった。



 第二セット開始。


 すぐさま赤尾と大地の速攻が決まる。二人のコンビプレイに鷲野が奥歯を噛みしめた。


「くそっ!」


 悔しそうな鷲野の声が聞こえてくる。


 初めこそ青藍の有利な状態で進められていた試合が、いつの間にか狼栄のぺ-スになっていた。青藍の頭脳鷲野が、狼栄を振り回そうとするがそれよりも一歩先で、大地がスパイクで決めていく。


 どんどん開いていく点差。


 そして……。


「ピピーー!!試合終了。勝者狼栄大学高等学校」


 18-25で狼栄大学高等学校が勝利した。

















 











     

































 




































































































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