第47話


 1月某日、私達は明日の春高本線のため東京体育館にやって来ていた。莉愛は犬崎高等学校の生徒であって、狼栄大学高等学校の生徒では無いのだが、昨日金井コーチから狼栄のジャージを手渡されていた。


「あの、これは?」


「これで莉愛もあれ達の仲間だな」


 大地が右手を突き出すと、皆も莉愛に向かって拳を前に突き出した。皆の視線が一斉に莉愛に集まる。


 私もこれで仲間……。


 嬉しくて胸が熱くなる。


 放心状態から瞳を輝かせると、莉愛も皆と同じように右手の拳を突き出した。そして頭を下げる。


「ありがとうございます。これを着て観客席から応援しますね」


 もらったジャージを握り絞めてそう言うと、皆がキョトンとした顔をした。


「姫川さんもベンチに入るでしょ?」


 えっ?


「いや、それは無理ですよ。私は狼栄の生徒では無いですし」


 チラリと金井コーチに視線をやると、楽しそうな顔をしたコーチが私の背中を叩いた。


「姫川さん、今回は特例でベンチに入る許可をもらった。きみもベンチに入れるよ」


「うそ……。本当に……?」


 金井コーチの言葉に、狼栄の皆が喜びの声を上げた。


「「「よっしゃーー!!」」」


 *


 本日、各県で一位となった王者達が、東京体育館に集結していた。明日から始まる春高バレーに向け、皆が興奮し目を輝かせていた。どの学校の選手達も自分達が負けるなんて思っていない。


 そう、私達だって。


 東京体育館の場所を確認した私達は、今日からお世話になるホテルへと向かった。負ければすぐにチェックアウトして帰る事になるこのホテルに、少しでも長くお世話になっていたいと願う莉愛。


 夕方になり莉愛は外に出た。大地に散歩に誘われたのだが、少し早く出てきてしまったようだ。ホテルのエントランスから歩道に出ると、お洒落な格好をした人々が足早に歩いていた。


 東京の人は普段もお洒落なんだなー。


 東京の何の変哲も無い風景を眺めていると、その中に一人大きな体躯に赤髪の男子高校生が、キョロキョロと辺りを見渡していた。


 どうしたのかな?


 ジャージの背中に学校名が入っているし、高校生だよね?


 赤髪で目つきの悪い男子高校生は、何やら困っているのか、誰かに声を掛けようとしている様子だった。しかし、男子高校生の容姿のせいか、誰も目を合わせること無く足早に通り過ぎていく。莉愛はそんな男子高校生を放っておけずに近づいた。


「あの……大丈夫ですか?何かお困りですか?」


 声を掛けてみると、男子高校生はハッとしたような顔をして莉愛を見つめた。


「あんた俺が怖くないのか?」


 ?


 いきなりなんだろう?


 私の回りには、常に背の高い人達ばかりだ。目の前の男子高校生が大きくてもそんなことは気にならない。


「えっと……怖くは無いです。それにあなたは怖いことをしていないですよね?」


「まあ、そんな事はしないんだが」


「やっぱり怖くはないですね」


 そう言って莉愛が笑うと、男子高校生がスッと目を逸らし頬を掻いた。


「それで、どうかされたんですか?」


「ああ、自分の宿泊しているホテルに戻りたいのだがスマホを忘れて、仲間ともはぐれて……道を尋ねたいのに、こんな見た目の俺では誰も目を合わせてくれなくて、困っていた」


「そうだったんですね。宿泊しているホテルを教えて下さい。今スマホで調べますね」


 莉愛が持っていたスマホを取り出し、男子高校生の言うホテルを調べた。するとここから歩いて五分もかからない場所にあることが分かった。


「そうか、ありがとう。助かった」


「お役に立てて良かったです」


 そう言って笑うと、男子高校生がいきなり莉愛の顎を軽く掴んで上に上げた。


「やっぱり……あんた……女?」


 えっ……。


 初めて出会った人に女だと言い当てられたのは初めてで、莉愛はドキリとした。顎を掴まれたままの莉愛が動けずにいると、突然体が後ろに引かれ何かに包まれた。


「お前、何をしている?」


 いつもより低い声だが顔を見なくても分かる。この声の主は……。


「大地?」


 いつもより低い大地の声に莉愛が驚き振り返ろうとするが、大地にがっしりと肩を抱かれたまま動くことが出来なかった。男子高校生と大地がにらみ合いピリピリとした空気が漂い始める。歩行者達も何事かと、こちらを気にしているのが視線で分かる。こんな所でもめ事を起こして、何かあったら大変だ。春高出場停止なんて事も……。莉愛は自分を守る様に包み込んでくれている大地の手を優しく叩いた。すると大地が我に返ったのか目を瞬かせた。


 それから莉愛が心配から眉を寄せていることに気づいた大地が、柔らかな表情で微笑んだ。大地のその表情を見た男子高校生が、驚きながら声を掛けてきた。


「お前、狼栄の大崎だよな?」


「ああ、そっちは鳳凰学園の竹田豪(たけだごう)だな」


「へぇー。そいつお前の何?随分大事そうだな。まあ、どうでも良いが……今年はブロックが違うから決勝まで当たることは無いな。そこまで狼栄が勝ち残ればの話だがな」


「はっ!勝ち進むに決まっているだろう」


「くくくっ、途中で脱落するなよ」


 そう言いながら意地悪な笑みを浮かべ、竹田豪は走って行ってしまった。莉愛が呆然と竹田の後ろ姿を見つめていると、大地に声を掛けられた。


「莉愛大丈夫?あいつに何かされなかった?」


「ううん、何も……。困ってたから道を教えただけ」


「……道を教えただけで、どうして竹田に顎を掴まれるあの状況になるわけ?俺が来てなかったらどうなってたか」


「どうにもならないよ」


「どうしてそう思うの?竹田は莉愛を見ていたよ」


「私を?」


 確かにジッと見つめてはいたけど……。


「そう言えば、初めて会った人に『女か?』って聞かれたの初めてかも……」


「竹田は莉愛が女の子だって気づいたの?」


「うん」


「っ……」


 言葉に詰まった大地が、莉愛に気づかれないように、苦虫を噛み潰したような顔をした。





































































































































 
















































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