第46話


「莉愛さーん」


 大きな声で莉愛を呼び、笑顔で手を振るのは空だ。


「空ちゃん今日も元気だね」


「はい。私は元気だけが取り柄ですから」


 そう言いながら空が自転車をこぎ出した。


 誤解が解けた次日から空は犬崎高等学校に毎日やって来ては、莉愛と共に狼栄大学高等学校へ行くことが日課となっていた。初めこそ莉愛と共にジョギングで向かったのだが、莉愛に全く追いつくことが出来ず、途中から歩いて向かうという悲しい結果となってしまった。それでは申し訳ないと、今は自転車で併走することとなったのだが……。


「はぁー。はぁー。はぁー」


 息を切らしながら自転車をこぐ空を、心配しながら莉愛が声を掛けた。


「空ちゃん大丈夫?」


「大丈夫です。私の事は気にせず、莉愛さんのペースで走って下さい。莉愛さんとの、この時間のためなら……はぁー。はぁー……」


「そっ……そう……?」


 そう言われても気になっちゃうんだけど……。


 それにしても私との時間の為って……どういうことなんだろう?


 チラリとそれの様子を気にしつつ狼栄へと向かう。そして狼栄に着く頃には、空はもう一歩も動けないといった様子で、グッタリとしていた。


「空ちゃん、これ飲んで」


 莉愛がペットボトルのスポドリを手渡すと汗だくの空が、息を荒げながら申し訳なさそうにそれを受け取り口にした。


「はぁー。はぁー。莉愛さんすごいですね。自転車で追いつくのがやっとなんて……」


「脚力には自信があるんだよね」


 汗を拭いながらニコッと笑うと「うぐっ」と変な声を出した空の頬が赤く染まった。


 ?


 どうしたのかな?


 よく分からないけど空ちゃんは可愛いなー。


 *


「莉愛、また空と一緒に来たのか?」


 声を掛けられた方へと振り返ると、大地が少し眉を寄せながら立っていた。


「うん。校門の前まで一緒に来たけど、暗くなる前に帰るように言ったから大丈夫だよ。それに家に着いたら連絡するように話してあるから、そろそろ連絡が来るんじゃないのかな?」


「連絡先交換したんだ」


「うん。毎日かわいいスタンプが送られてくるよ」


 楽しそうに笑う莉愛を見ていた大地が、複雑そうな顔をした。


「もしかして妹を取られたみたいで嫉妬してる?」


「確かに嫉妬はしているが……空にだな」


「どういう意味?」


「空に莉愛を取られて嫉妬してる。俺の莉愛なのに」


 なっ……何を言い出すの。


 俺のって……。


 何これ、顔が熱い。


 鏡を見なくても自分の顔が赤くなっていることがわかる。


「もう大地は恥ずかしげも無く、すぐそう言うこと言うんだから」


「本当の事だし」


 莉愛の赤くなった頬を撫でながら、愛おしそうに大地が微笑んだ。甘い空気が辺りに漂い、莉愛はその空気に耐えられなくなり話を逸らした。


「空ちゃんホントに可愛いよね。妹が出来たみたいで嬉しい」


 それを聞いた大地がフッと笑った。


「将来的に空は莉愛の妹になるけどな」


 意味深な言葉に莉愛は固まった。


 それって……それって……そう言う意味だよね。


 結婚……二つの漢字が頭に浮かぶ。


 ひゃーー。


 熱い……。


 更に赤くなった顔を大地に見れたくなくて俯くと、大地が莉愛の顎を持ち上げ無理矢理に顔を上げさせられてしまう。


「この顔めちゃくちゃ可愛い。誰もいなかったらキスしてたのに」


 またそう言うことを。


「もう、大地!からかってばかりいないで、練習開始して!」


「はい、はい」


 

 そんなイチャイチャモードの二人を見つめ、狼栄の部員達は溜め息を付いた。


 うわーー。


 何なんだよ。このピンクの空間は……。


「はぁー。彼女ほしい……」


「大地さんすげえよな、あんな台詞……勉強になるわ」


「バカ、あんな台詞、俺達が言ってみろ。ドン引きされるか失笑だ」


 それにしても頼むから他でやってくれ。


 狼栄の部員達の顔から表情が抜け落ち、スンッと音が鳴った気がした。


 それを更に端から見ていた赤尾の顔がヒクついていた。体育館隅では莉愛と大地がピンク色の空気を出し、コートでは部員達が黒いオーラに染まってフラついている。


「おいおい。こんなんで、春高大丈夫なのか?」


 大きく溜め息を付く赤尾だった。































































































 




































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