第44話


 次の日、私はお兄ちゃんの通う狼栄大学高等学校までやって来た。それは昨日の事を聞くためだった。家で聞いても良かったが、親がおいる手前、大きな声で聞けないと思った。


 お兄ちゃんの恋人はホントに男なのかと……。


 母に自分の息子の恋人が男だと聞かせるわけにはいかない。きっと母を悲しませてしまうから……。今はそういう時代じゃないと分かっている。私だって分かっている。そんなの差別だって……。それでもお兄ちゃんには普通に幸せになってもらいたい。生きにくい世界で生きてほしくない。そう思ってしまう。 


 お兄ちゃん……。


 目の前にやって来たお兄ちゃんに昨日の事を聞こうとした。しかし本人を目の前にすると、何も言うことが出来なかった。頭を撫でられながら大好きなお兄ちゃんが笑っているなら良いか……なんて思ってしまう。


 一体私はどうしたら良いの?


 何も出来ずに家に帰り、自分の部屋のベッドに寝転がる。全くといって良い案が思い浮かばない。それから一日が過ぎ、二日が過ぎ、三日が経った。このままではらちが明かない、今日こそはお兄ちゃんと話をしなくては……。


 狼栄大学高等学校の門の前まで来ると、お兄ちゃんとあの日に見た男が並んで歩いていた。今日も一緒にいる……。私を見つけた男がお兄ちゃんから離れようとしたその時、お兄ちゃんが男の手を掴んだ。焦るお兄ちゃんと、逃げようとする男。そのただならぬ様子に怒りが芽生える。


「ちょっと、二人とも離れてよ。一体どういうつもり?!」


「ごめんなさい」


 お兄ちゃんに守られながら謝る男の姿に、更に怒りがこみ上げてくる。


 何よ、何よ、私の気持ちも知らないで、二人仲良くしちゃって。男を後ろに庇って隠して、私が悪いと怒っているお兄ちゃんなんて大嫌い。


 ごめんなさいって何よ。


 被害者ぶっちゃって。


 私がどれだけ悩んでここに来ていると思ってるの!


 両手の拳に力を入れたとき、お兄ちゃんが男を抱きしめた。


 それを見た私の怒りが頂点に達する。  


「ちょっと、私の前でやめてよ。お兄ちゃんのバカーー!!」


 私の叫び声の後、男がキョトンとした顔でお兄ちゃんと見つめ合うていた。格好いい二人が見つめ合うと絵になる。でも今はそんな事を思っている場合じゃない。


「お兄ちゃんて?」


「ああ、莉愛は会うのが初めてだったな。俺の妹で空だ」


「空ちゃん?」


 名前を呼ばれ怒りが再燃する。


「空ちゃんなんて気安く呼ばないで!」


「ごめんなさい」


 この人すぐに謝る。


 何なの?


「お兄ちゃんが、男を好きなんて知らなかった。どうして相談してくれなかったの?!」


 私が怒りを露わにしていると、二人が目を見開き固まった。


 ?


 何?


 それからお兄ちゃんが真剣な顔でなだめるように話し出す。


「空、俺は男が好きなわけではない。」


「何それ、言い訳?この人だから好きになったとでも言うつもり?」


「嫌そうじゃない。空は勘違いをしているんだ。莉愛は女の子だ」


「ん?……えっ……女の人?」


 え……何……どういうこと?


 女の人?


 驚愕の真実に空の体から血の気が引いていく。


 全ては勘違い……。


 自分の失態に耐えられなくなった空は、回れ右をすると大きな声で叫びながら走り出した。


「ごめんなさーーい!」


 *


 狼栄大学高等学校から逃げ帰ってきた空は、兄である大地と話をした。そして私が男だと思っていた人は、狼栄の生徒ではなく、犬崎高等学校の姫川莉愛さんだということが分かった。


 お兄ちゃんは男の人が好きなわけでは無かったんだ。


 でも……複雑な気分だ。


 お兄ちゃんに彼女が出来たことには変わりはないのだから。


 みんなが私の事をブラコンなんて言うが、しょうがないと思う。こんなに格好いいお兄ちゃんが近くにいたら、ブラコンにもなるよ。


 はぁーー。


 でも、どうしよう。


 失礼なことを沢山言ってしまった。


 莉愛さんに謝りに行かないと……。


















































































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