第43話
それは大地と莉愛がショッピングモールでデートをする日の朝に遡る。
「あれー?大ちゃんお洒落して何処かに行くの?」
「お前また大ちゃんて、お兄ちゃんだろ」
「良いじゃない。それで何処に行くの?もしかしてデート?」
からかうように聞いてみる。
すると少し照れた様子でお兄ちゃんが答えた。
「まあな……」
恥ずかしそうに視線を逸らす兄の姿に、空は驚愕する。
うそ……。
楽しそうな顔をしながら出掛ける準備をする兄を見ながら空は慌てた。
お兄ちゃんに彼女が出来た。
こんなに浮かれたお兄ちゃんを見るのは初めてかも……。
空は急いで部屋着から外出着に着替え、兄の後を追いかけた。どうやら待ち合わせは駅のようで、物陰に隠れながら空はその時を待った。そっと物陰からお兄ちゃんを見ると、スマホの時計を何度も確認する姿が見えた。
こんなに落ち着きが無く、ソワソワとしたお兄ちゃんも初めて見た。
今日はお兄ちゃんの初めて見る姿ばかり……。
何だかすごく嫌だ。
嫉妬に近い感情が生まれてくる。
今までバレー一筋で、女の影なんて微塵も無かったのに。グッと唇を噛みしめていると、そこに女性では無く男性がやって来た。
あれ?
女の人じゃない……。
なんだ、デートかと思ったら違ったんだ。
大ちゃんてば見栄はっちゃって、デートとか言うから焦っちゃったじゃない。
ホッと胸を撫で下ろしたその時、お兄ちゃんが楽しそうに男性の耳元で何かを囁いた。それから男性がまんざらでも無さそうな顔で、耳まで真っ赤にしてお兄ちゃんとイチャついきだした。
ウソでしょう。
何この感じ。
回りで見ていた女性達がリアルBLと喜んでいるのが聞こえてきた。
リアル……BL?
お兄ちゃんは男の人が好きだったの?
それから手を繋いで電車に乗り込む二人を尾行して、ショッピングモールまでやって来た。本当に二人は付き合っているのかを確かめたい。更に尾行を続ける空だったが、迷子の少女と遭遇してしまう。
えっと、どうしよう。
でも、この子を放っておくことも出来ないし。
どうしようかと考えていると、お兄ちゃんと一緒にいたはずの男性が近づいてきた。
「えっと……大丈夫?きみの妹さん?」
「えっ……あっ……その、違います。この子迷子みたいで」
「そっか、迷子の女の子を助けてたんだ。偉いね」
近づいてきた中性的な顔は、格好良くて空の心臓が早鐘を打つ。ぽーッと男性の顔を見つめていると、『偉いね」といいながら頭を撫でてきた。尾行していた相手からの、思わぬ接触に空の喉がヒュッとなってしまう。
まずい。こんな過剰な反応、怪しく思われただろうか?
しかしここは開き直るしか無い。そう思っていたが目の前の男は特に気にしている様子も無く、何やら呟いた。
「この高さならいけるかな?」
えっまさか風船を取る気?お兄ちゃんでも無理かもしれない高さがあるのに。
ドクンドクンと先ほどとは違う大きな音を立てる心臓。
静まれ心臓。
届くわけがない。
グッと膝を曲げ、ジャンプする美しい男性の姿に空は見惚れた。
悔しいけど、格好いい。
風船には手が届かなかったものの、その美しいジャンプに周りにいた人々から歓声が上がる。そんな歓声も特に気にした様子も無く、男性は女の子に謝った。
「ごめんね。届かなかった」
謝る男性と、女の子の元に母親がやって来た。私はどさくさに紛れるようにして、その場を離れた。少し離れた場所からまた男性を観察し始めると、男性がまたジャンプした。先ほどよりも高いジャンプだったが、風船には手が届かなかった。
惜しい、あともうちょっとなのに。
思わず男性を応援している自分がいた。
そこにお兄ちゃんが戻ってきた。ザワつくショッピングモール内で、お兄ちゃんが男性に顔を近づけ、ご褒美をねだっている。
うそ、うそ、うそ……顔近すぎるって!
近すぎるその距離に、空は焦った。そして二人を引き剥がそうかどうしようかと考えているうちに、お兄ちゃんがジャンプしていた。ダイナミックでパワフルなジャンプに、大きな歓声が上がる。
さすがお兄ちゃん!
先ほどの男性のジャンプなんて目じゃない。
空は自分の兄に拍手を送った。すると更に男性とお兄ちゃんの距離が近づき、こちらからではキスをしているようにさえ見える距離まで近づいたとき、このはが無邪気な質問をした。
「ふたりはこいびとどうちなの?」
私はお兄ちゃんの答えを待った。
「うん。そうだよ」
嬉しそうに笑う兄の姿。
そんな……お兄ちゃんの恋人はこの人なんだ……。
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