第42話


 練習が終わり体育館の扉を閉め校門に向かうと、一人の少女が立っていた。


 あれは……そっか、大地を迎えに来たんだね。


 今の私は邪魔者だ。


 二人の仲を引き裂こうとする悪役。


「大地、わたし……先に帰るね」


 走り出そうとする私の腕を、大地が掴んだ。


「莉愛、どうして逃げるんだ」


「どうしてって……私は邪魔者でしょう」


「邪魔って、一体何の?」


「だから私が二人の邪魔をしているんでしょう」


 スッと莉愛が視線を校門の外に向ける。そして莉愛の視線を追いかけるように大地が少女のいる方へと視線を向けた。


「空?」


 すると空(そら)と呼ばれた少女が、大股でこちらに歩いてくる。


「ちょっと、二人とも離れてよ。一体どういうつもり?!」


 目をつり上げながら莉愛を睨みつけてくる少女。


「ごめんなさい」


 莉愛が思わず謝ると、大地が私を庇うようにして後ろに隠した。


「空、お前何しに来た。大体なんだその態度は、こっちは三年生で先輩だぞ」


「だから何?私から大ちゃん取ったのそっちじゃない」


 大ちゃん……。


 私が取った。


 親しげに大ちゃんと大地のことを呼ぶ、少女の顔がまともに見られ無い。


 私が二人の障害になっている。


 私はこの子から大地を奪ってしまったのか、それではまるで悪女ではないか。


「大地、ごめんね。私……」


「莉愛、何がごめんなの?莉愛が謝る事なんてないんだよ」


 大地が振り返り、抱きしめてくれる。


 ああ……最後に、こんな風に抱きしめられたら、諦められなくなってしまう。莉愛が強く握りしめていた手を大地の背中に回し触れようとした所で、少女の叫び声が聞こえてきた。


「ちょっと、私の前でやめてよ!お兄ちゃんのバカーー!!」



「…………」



 ん……?



 私の聞き違いだろうか?


 お兄ちゃん?


「あの……お兄ちゃんて?」


 大地に抱きしめられたままキョトンと顔を上げる。すると色々と察した大地が、ホッと息を吐き出し少女の紹介を始めた。


「ああ、莉愛は会うのが初めてだよな。俺の妹で空だ」


「空ちゃん?」


 名前を呼ばれた空が、怒りで顔を赤くさせながら叫んでくる。


「空ちゃんなんて気安く呼ばないで!」


「ごめんなさい」


 莉愛が謝ると、更に顔を赤くさせた空が声を張り上げた。


「お兄ちゃんが男の人を好きだなんて知らなかった。どうして相談してくれなかったの?!」



「「…………」」



 空の言葉に莉愛と大地は言葉を失った。しかし大地がすぐに我に返り、怒り続ける空をなだめるようゆっくりと話し出した。


「おい、空。俺は男が好きなわけでは無い」


「何それ言い訳?この人だから好きになったとでも言うつもり?」


「嫌そうじゃ無い。空は勘違いしているんだ。莉愛は女の子だ」



「「「…………」」」



 莉愛は女の子……その言葉の後、三人が沈黙する。沈黙から数秒後、空が困惑しながら口を開いた。


「ん?……えっ……女の人?うそ……だったら……」


 空が顔面を蒼白にさせブツブツと呟き出した。そして何かを理解したらしい空が「ごめんなさーい!」と大きな声で叫びながら走り去って行った。そんな空の姿を唖然と眺めていた二人だったが、莉愛はハッと我に返ると唖然とする大地の背中を押し、空を追いかけるように声を掛けたのだった。




















































































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