第39話
電車に乗り、莉愛と大地は大型ショッピングモールにやって来た。
「うわー。ショッピングモール初めて来た」
「莉愛はこういう所に来ないの?」
「うん……。人が多い所はあんまり」
「人混み嫌い?」
「ううん。背が高いから人目が気になるだけ。男女って言われてるんじゃないかって、自然と猫背になっちゃうの」
「そっか、でも今日は俺と一緒だから背が高くても目立たないよ。一緒に楽しもう」
目立たない?
そっか、大地の背は私より高い。
目立たないのかな?
莉愛が周りを見渡すと、女の子達がポーッとした顔でこちらを見つめていた。
んーー?
でも違う意味で目立っているような……。
でも、そうだよね。
大地となら楽しめる。
莉愛は顔を上げると大地の手を引いた。
「行こう大地。時間がもったいない」
それから私達は服を見たり、雑貨を見たりして普通のデートを楽しんだ。お昼もショッピングモール内にあるレストランで済ませ、次は何をしようか考えていたところで、大地が飲み物を買いに行くと言うので、歩行の邪魔にならないよう莉愛は端によって大地を待った。大地を待っている間、莉愛はショッピングを楽しむカップルや、家族連れを眺めた。その中にオロオロと戸惑う少女と、泣きじゃくる小さな女の子の姿が目にとまった。泣きじゃくる女の子のせいで、どんどん人だかりが出来ていく。莉愛は女の子二人が気になり近づくと、小さな女の子が何かを指さしていた。莉愛は女の子が指を指す方に目を向けると、そこにはオーナメントに引っかかる風船が……。それを見ていた人々から落胆の声が聞こえる。
「あぁー風船か。あれは無理だわ」
「脚立とか無いと無理な高さだな」
それが聞こえたのか、小さな女の子が更に泣き出した。
「うぇーん。ふうしぇん……っうえ……このちゃんの」
泣いている女の子の隣で、中学生ぐらいの女の子も困った様にソワソワしていた。莉愛は思わず二人に声を掛けた。
「えっと……大丈夫?きみの妹さん?」
「えっ……っ……あっ、その……違います。この子、迷子みたいで」
「そっか、迷子の子を助けてたんだ偉いね」
莉愛はそう言って女の子の頭を撫でた。すると、ヒュッと息を呑む音が聞こえてきた。
触られるのが嫌だったかな?
女の子の様子を見た莉愛はすぐに離れた。それから風船の距離を確かめる。
「この高さならいけるかな?」
莉愛は膝の屈伸を使って、風船に向かって飛び上がった。それを見ていた人々が驚きの声を上げる。
「うおっ、すっげー」
「すごいジャンプ力」
しかし、それでも風船の糸のには手が届かない。莉愛は女の子に謝った。
「ごめんね。届かなかった」
莉愛は眉を寄せ小さな女の子の前に片膝を付くと、女の子が嬉しそうに笑った。
「おうじしゃまなの?」
「へ……?」
王子様?
「このちゃん、おうじしゃまなにあったの、はじめてなの」
ザワつくショッピングモール内の一角に気づいた、女の子の母親だと思われる女性が駆け寄ってきた。
「このは!何処に行ってたの?心配したのよ」
先ほどまで泣きじゃくっていたこのはは、キョトンとしながら母親に抱きしめられていた。
「ママおうじしゃまが、たしゅけてくれたから、だいじょうぶなの」
莉愛を見た母親が深々と頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしてしまい、すみませんでした。ありがとうございました」
「いえ、私は何も……こっちにいる子が……あれ?どこに行ったんだろう?」
先ほどまで一緒にいた女の子は、いつの間にかいなくなっていた。莉愛が首を傾げていると、下の方から悲しげな声が聞こえてきた。
「ママふうしぇんが……」
「風船から手を離しちゃったの?仕方が無い、もう一度もらいに行こうか?」
溜め息を付くこのはの母親に莉愛は声を掛けた。
「もう一度取ってみるので、ちょっと待って下さい」
「えっ……でも、この髙さじゃ……」
莉愛は助走をつけジャンプした。先ほどより高いジャンプに、周りにいる人々は息を呑んだ。が、しかしあと1㎝と言うところで手は届かなかった。ストンと床に降りた莉愛は眉を寄せながら、このはに謝った。
「このちゃんごめんね。あと少しなんだけど届かなかった」
このはの頭を優しく撫でながら微笑むと、このはの母親が頬を染めながら頭を下げた。
「いえ、大丈夫です。こちらこそご迷惑をおかけして、すみませんでした」
このはの頭を撫でる莉愛の元に、大地が飲み物を持ってやって来た。
「どうした?何かあった?」
「あっ……大地、風船が取れなくて」
「ん?あれ?」
大地が風船を指さし、フッと笑った。
「莉愛、風船取れたらご褒美くれる?」
「えっ……ご褒美って」
息が掛かるほど近づいてきた大地の顔に、たじろぐ莉愛。不敵に笑う大地と顔を赤くする莉愛二人のただならぬ雰囲気に、回りで様子を見ていた女子達の空気がおかしな事になっていた。
「キャーッ!」
「何なに、そういうこと?」
ザワつく女子達が頬を染めていく。そんな中、大地が何度か屈伸すると、その場で床を蹴り上げた。すると風船の糸に大地の手が届く。
わっ……すごい届いた。
ストンッと床に降り立った大地が、このはに風船を手渡すと歓声が上がった。
「おおー!すっげー」
「何だよあのジャンプ力」
「キャーッ!格好いい」
ホントに大地は格好いい。こういう時にサラッと何でも出来ちゃうんだから。莉愛が大地に見惚れていると、大地がいつの間にか目の前にやって来ていた。
「莉愛、ご褒美もらうね」
後ろに後ずさろうとする莉愛の腰を大地がホールドし、逃げられないようにすると、ゆっくりと顔を近づけてくる。
ちょっ……ご褒美って、こんなに人が大勢いる所で何をする気?
真っ赤な顔で固まる莉愛の顔を見た大地が、プッと吹き出した。
「莉愛可愛い。顔真っ赤」
かっ……からかわれた。
「大地!!」
莉愛は大地の胸をポコポコと叩いてみせる。
端から見たらその様子は、男二人がじゃれ合っているようにしか見えない。そんな二人に無邪気なこのはが尋ねた。
「二人はこいびとどうちなの?」
その質問にこのはの母親は慌てながら、このはの口を手で覆った。そして二人が何と答えるのか、固唾を呑んで見守った。
そんな親子に向かって、大地は悪戯っ子のようにニッと笑う。
「うん。そうだよ」
大地の答えに、回りで耳をダンボにして聞いていた腐女子達から悲鳴が上がる。興奮する腐女子達が悶絶する中、先ほど迷子のこのはを助けていた少女が、青い顔をしながら莉愛と大地を少し離れた場所から見つめていた。
「うそ……何で、こんなことに……」
ブツブツと何かを呟きながら、少女は顔を伏せたのだった。
その日の夜ネット上で腐女子達が盛り上がっていた。
『今日ショッピングモールで会ったカップルか最高だった件』
『イケメンが過ぎるカップル』
『イチャつくリアルBL最高!』
『最高過ぎる一時をありがとう』
そんなコメントで賑わっていた。
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