第38話


 それから数日が過ぎ、春高本線まで三週間を切った。毎日の厳しく辛い練習のせいか、狼栄の部員達がゲッソリとしたいた。そんな中、金井コーチから一日休みの指示が出る。その代わり、そこから春高本線までは休みは無いと言うことだった。


「莉愛は今度の休みは何してる?」


「えっ?特に予定無いけど?」


「なら、一緒に出かけない?」


 こっ……これはいわゆるデート。


 しかも次の部活が休みの日は祝日で学校も休み。


 初めての一日デート。


 莉愛は大地からのデートの誘いに、コクリと頷いた。


 一日を大地と過ごすのは初めてのことで、莉愛は胸が高鳴るのを押さえるのに必死だった。赤尾にはそのことがバレバレで、練習中何度もからかわれ続けたのだった。



 デート当日。


  莉愛は大地との待ち合わせ場所である駅に着くと、何度か深呼吸をしてから辺りを見回した。


 すると……。


「莉愛こっち」


 名前を呼ばれそちらに視線を向けると、Vネックのインナーに黒のロングコートを着た、私服姿の大地が手を振っていた。いつものジャージ姿とは違う大地に、心臓がトクトクと音を立てる。


 うわーー!


 大地は背が高いからロングコートが良く似合う。モデルのような長身に、整った顔。そんな大地を周りにいる女の子達が、頬を染めながらチラチラと見ているのがわかる。


「大地は私服も格好いいね」


「そうか?莉愛も格好いいと思うけど?」


 あーー。


 私は……。


「この身長だから可愛い服とか似合わないし、お洒落は良く分からなくて……」


 黒のジャケットに白のニットインナーのパンツスタイル姿の莉愛は、男っぽい自分の格好が恥ずかしくなった。


 もう少し……少しで良いから女子に見える格好にすれば良かったかな……。


 今更そんな事を考えても後の祭りなのだが、俯く莉愛の耳に優しく甘い大地の声が響いた。


「大丈夫、似合ってる。莉愛は何を着ても莉愛だよ」


 全てを見透かされたような大地の発言に驚く莉愛。そして耳元で囁かれた甘い声音に鼓膜が震え、思わず耳を押さえた莉愛は、真っ赤な顔で大地を見た。


「莉愛、顔真っ赤」


 莉愛の頬に触れ、微笑む大地。


 そんなイチャつく二人を少し離れた場所から見ていた女子達から何故か「キャーッ!」と悲鳴が上がった。それに気づいた大地が口角を上げ、周りの女子に見せびらかすように莉愛の手を取ると、更に黄色い悲鳴が上がった。それを大地は無視して歩き出す。


「ほら、行こう」


 大地に手を引かれ、莉愛は電車に乗り込んだ。



 その二人の様子を驚愕しながら見つめる一つの陰が存在していたことに、この時の二人はまだ気づいていなかった。












































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