第35話


 その日の帰り道、莉愛と大地は二人並んで歩いていた。大地はスランプから抜け出せた喜びに浸っているのか、時々自分の手を見ては、グーパーと手を握ったり開いたりを繰り返していた。


 やっと自分のプレイが出来るようになったんだもん。


 嬉しいよね。


 莉愛も大地の大きな手を見つめながら微笑んでいると、大地が急に立ち止まり真剣な顔を向けてきた。


「莉愛ありがとうな」


「ん?どうしたの?」


「お礼が言いたかったんだ」


「たいしたことはしてないけど……」


「いや、そんなことは無い。本当に助かった」


 大地はそう言うと、莉愛にもたれかかるように肩に頭を乗せた。毎日切羽詰まっていたのだろう。


 やっとスランプから抜け出せて、肩の力が抜けたのかな?


 莉愛は肩の乗せられた大地の頭にそっと手を伸ばし、優しく撫でた。


「本当にありがとう。俺……もうバレー出来ないのかもって、本当に怖かった」


 いつも自信に満ちあふれている大地が、そんな風に思っていたなんて……。


 莉愛は肩に乗せられた大地の頭を撫でながらそっと囁いた。


「大地良かったね。大地の役に立てて嬉しいよ」


「莉愛が俺の彼女で良かった」


 そう言って顔を上げた大地がニッコリと笑った。その顔がいつもより幼く見えて、莉愛の胸がキュンと高鳴った。


 かっ……かわいい。


 何その顔やばい。


 いつもキリッとしている大地のふにゃ顔、ホントにやばい。


 可愛すぎる。


 心の中で悶絶していると……。


「莉愛、キスしたい。ダメ?」


 わー、わー、わー、何なんなの今日の大地は……。


 可愛く首を傾げる大地の仕草に、莉愛はノックアウト寸前だった。


 やだ……なに、何なのこの可愛い感じは、心臓が痛いんですけど!あーもう無理、降参です。莉愛は観念したように答えた。


「だっ……ダメでは無いです」


 莉愛の答えを聞いた大地が、親指の腹を使って莉愛の唇に触れる。莉愛の柔らかい唇を確かめているのか、何度か唇の上を行ったり来たりさせると、顔を近づけてきた。それに合わせて莉愛がそっと目を閉じると、唇がふれ合う。一瞬のふれ合いだが、熱く温かなモノが流れ込んでくるような錯覚に陥る。幸せの波長が全てを飲み込むように。その余韻に浸りながらそっと瞼を開ける。


「莉愛、好きだよ」


 目の前に破顔した大地の顔があった。


 うぐっ……可愛すぎる。



































































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