第30話


 莉愛は大きな歓声の中、肺に溜まっていた息を吐き出した。これは溜め息では無く、緊張と緊迫感から強ばった体の力を抜くために行ったものだった。


 ああ……終わった……。


 終わってしまった。


 莉愛は上を向き目を瞑った。それはアリーナのライトが眩しかったからでは無い。涙を堪えるためにした動作だった。グッと、涙が流れてこないよう瞼に力を入れる。


 みんなが戻って来るのだから、しっかりしなくては……。


 拍手をしながら莉愛は皆が戻ってくるのを待った。そんな莉愛の視線の先では立っているのもやっとの状態の拓真達が、足を引きずりながら泣いていた。


 ああ……みんなよく頑張った。


 最後まで諦めずにボールを追いかけてくれた。


 それなのに勝たせてあげられなかった。


 ……勝たせてあげたかった。


 ごめん……。


 ごめんね。


 みんな……。



 ベンチまで戻ってきた拓真達は、崩れる様にその場に倒れ込んだ。足の痙攣が更に強まり、立っていられなかった様だ。そんな拓真達に莉愛は労いの言葉を掛ける。


「みんなすごいよ。よくここまで……ここまで頑張ったよ。ほら、顔を上げて。下なんて見る必要ない。拓真、祐樹、充、瑞樹、流星、洋介、ベンチのみんな、胸を張って前を見て。私はみんなが誇らしい」


 目尻に涙を溜めた莉愛がニッコリと笑うと、それにつられる様にして、みんなも泣き笑った。


 それから補欠のみんなと共に、水分補給の為のスクイズボトルを拓真達に手渡し、汗で体が冷えないようタオルを体に掛けていると、体育館がざわめいた。どうしたのだろうと莉愛が顔を上げると、そこには大地が立っていた。頬から顎に落ちてくる汗を右手の甲で拭いながら、大地が莉愛に右手を伸ばす。


「莉愛、来い!」


 えっ……来いって……。


 でも……今は犬崎のみんなと離れてはいけない気がする。そう思いながらも大地の元へ行き、優勝を祝う言葉をかけてあげたい……。そんな対照的な思いがせめぎ合う。大地の手を取ることをためらう莉愛の背中を、拓真が押した。


「大丈夫だ。行ってこい」


 後ろから囁くような声がした。莉愛が後ろを振り返ると、親指を立てる拓真の姿があった。その後ろでは、みんなも親指を立てて見送ってくれている。


 みんな……ありがとう。


 莉愛は一歩、二歩とゆっくりと大地に近づき、大好きな人の胸の中に飛び込んだ。


 大地……。


 大地に抱きついた莉愛は、両腕を大地の首に巻き付けるようにして、唇を大地の耳元に寄せた。


「大地、優勝おめでとう」


 莉愛の甘い声音に大地の体がゾクリと震え、体を熱くさせた。莉愛もまた、二ヶ月ぶりに感いる大地の体温と匂いに、胸が締め付けられ苦しくなっていた。


 その様子を見ていた谷が、更に興奮し実況を続けた。


「春高予選、群馬の頂点に立ったのは王者狼栄大学高等学校。そして犬崎から女王を奪い取ったーー!!両校とも全ての力を使い果たし、素晴らしい試合を見せてくれました。両校にもう一度、大きな拍手を送りましょう」


 群馬体育館にいた全ての人々と、テレビの前で応援し続けた沢山の人々が、両校に対し大きな拍手を送ったのだった。





















































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