第28話
第五セットが始まる。
「泣いても笑ってもこれが最終セットです。第五セットはデュース無しの15点先取した方の勝利となります。ファイナルセットを取り群馬の頂点に立つのは王者狼栄か、それとも犬崎か……ここからは目が離せません。第五セットは犬崎高等学校、立石充からのサーブではじまります」
充はエンドラインの後方の位置に着くと、大きく深呼吸を繰り返した。そして莉愛の方へと視線を向けると、莉愛が大きく頷いた。『今こそ決めなさい』充はそう言われた気がした。
そうだ、今こそあのワザを決める時。
充はボールをやや高めに上に上げると、そのボールに飛び付いた。
そして……。
「バンッ」
サービスエース!
それは莉愛と充が密かに練習していたサーブ。ここぞと言うときに使おうとしていた必殺技。ジャンプフローターサーブだった。
このサーブはフローターサーブと同じく無回転のサーブのため、急激に変化するサーブだ。しかも普通のフローターサーブとは違い、ジャンプして行うサーブのため打点が高くなり、威力を発揮する。
「ナイスサー充!」
充、すごい……すごいよ。
ここで決められるのがすごい。
充が親指を立てて最高笑顔を莉愛に見せる。莉愛も充に親指を立て笑顔で返すと、それを見て面白くない人物が一人いた。
それは相手チームの大地で……仲良くサインを送り合う、充と莉愛に嫉妬していた。
俺はどんなに莉愛にサインを送っても返してもらえないというのに……。
それは現在莉愛と大地が大戦中だからと言うだけなのだが、大地の莉愛への思いは限界に来ていた。
「あーあ、更に火を付けちゃったな」
翔の小さく呟いた声に、谷が興味津々で問いかける。
「大崎大地選手の事ですね」
「はい。今ので完全にスイッチが入った感じがするんですよ。限界だったんじゃ無いですかね?」
「何の限界ですか?」
「あの二人は、今大会が始める二ヶ月前から連絡を取ることも、会うことも止めたらしいんですよ。馴れ合うのは良くないし、情が湧いて本気を出せなくなっても困るでしょう?頑張ってここまで我慢してきたのに決勝戦という舞台で、どんなに莉愛にアピールしても睨まれるだけで……今みたいに目の前で、立石充には笑顔を向けるんですよ。自分には向けられない笑顔……俺なら耐えられないし、やってられないですよ。一番応援してもらいたい人なのに」
「確かにやっていられないですね。切ない。それであの怒りの表情な訳ですね。それにしても大会のために二ヶ月会わないなんて、引き離されたロミオとジュリエットみたいですね」
「まあ、悲劇では無いですが、二人の決意の表れですね」
「決意ですか。すごいですね。そんな話しを聞いてしまうと、どちらを応援したら良いか、テレビの前の皆さんも悩んでしまうのでは無いでしょうか?ロミオとジュリエット一体どちらに勝利の女神は微笑むのか?勝利の瞬間を皆さんも、一緒に立ち会いましょう」
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