第27話
始まった第四セット。
このセットを狼栄に取られれば、犬崎の負けだ。
取り返さなければ……。
このセットを取れば第五セットに持ち込める。
第四セット開始、それは狼栄の安齋のフローターサーブから始まった。フローターサーブはボールが回転しないため、急激に落ちたりと変化するサーブである。充は咄嗟にそれに反応し、レシーブで上げる。それを祐樹から流星へ、体をこれでもかとしならせた流星は渾身の力を込めてボールを叩き付ける。
「ズバンッ」
ここから洋介と流星のスパイクが決まっていく。
このセットを狼栄に取られるわけにはいかない。
私達は勝って、春高に行くんだ。
必死にボールを追いかける選手達。どちらも引かない攻防戦。開かない点差。
狼栄が得点すれば、犬崎が必死に食い下がる。
そして第四セット後半21ー20で犬崎が狼栄に逆転する。
あと4点……お願い。
「バシンッ」
充のブロックで大地のスパイクを阻む。
逃げ切って!
祈るように莉愛が手を合わせる。
ボールが床に落ちるたびに、大きな歓声が上がる。
両校の応援団も力の限り応援を続けた。
選手に届けと、背中を押すように。
そして後……1点。
「トンッ」
その時、祐樹のフェイントが決まった。それは流れるようなフェイントで、狼栄の選手達の反応が遅れ、ネット際にボールが落ちた。
ホイッスルと共に審判の声が響く。
「第四セット犬崎高等学校」
中継の谷が興奮して立ち上がった。
「上手い!犬崎のセッター近藤祐樹のフェイントが決まったーー!第四セットを取ったのは犬崎だー!素晴らしい。どちらも引かない。まるで春高本戦のような緊迫感。犬崎がここまで狼栄を追い詰めると誰が予想していたでしょうか?本当に素晴らしい試合だ!!」
ベンチでは疲れ果てた拓真達が頭にタオルを掛け、荒い息を繰り返した。第四セットが終わり、みんなの限界が近づいていた。それでも私は言わなくてはいけない。ここで優しい言葉なんて必要ない。皆を奮い立たせる言葉が欲しい。
莉愛はベンチの前に立ち不敵に笑った。
「みんなもう、へばったの?足が動かない?息が苦しい?そんな事は狼栄も一緒よ。私は言ったわよね。全てのボールを拾いなさいと……、出来るでしょう?これを最後にしないで、勝利の女神に微笑んでもらうのは私達よ」
莉愛の言葉を聞き終えた拓真が勢いよく立ち上がる。
「勝利の女神も女王も、俺達のもんだ!第五セット取るぞ!」
拓真の気合いを入れる声に合わせて、みんなが声を上げた。
「「「おおーーーー!!」」」
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