第25話
ここで中継の谷に切り替わる。
「いやー。犬崎の姫川格好いいですね。『勝利を捧げなさい』痺れますね。そう言えば犬崎高等学校の横断幕は『捧げよ』でしたね」
「はー。我が妹ながら格好良すぎて、惚れ惚れしますね。美人だー。自慢の妹です」
「あはは……。あっ、ここで試合開始のホイッスルです。サーブは犬崎のキャプテン津田拓真。ここは思いっきりいきたい、津田ボールを高く上げた。そしてジャンプサーブ、これは……入ったー。サービスエーース!」
最初に得点したのは犬崎だった。最高の出だしに喜んだのもつかの間、そこから狼栄が1点また1点と得点を増やしていく。そしてここで大地にサーブの順番が回ってくる。
「ズドンッ」
大地渾身のジャンプサーブが大きな音を立てて、体育館の床を転がって行った。遠くから見守る応援団も、大地の強烈なジャンプサーブにゴクリッと喉を鳴らし、言葉を失う。シンと静まり返る体育館に、ボールの音だけが響いた。それから一拍おいて歓声が上がる。
「すっげー。あんなの取れるのかよ」
「無理だろ。触れるだけでも無理だって」
もう一度、大地のジャンプサーブが……来る。「ズドンッ」床にめり込むようなジャンプサーブ。
大地は本気だ。
私達を初めから、全力で潰しに来ている。
手加減なんて一切無し。
相手チームに彼女がいようが、試合において手を抜くなんて事はしない。
大地が全力を出してくれていることが、莉愛は嬉しかった。
私の彼氏はホントに格好いい。
そんな大地に、ほうっと見惚れそうになるが、顔の筋肉を引き締める。
「ズドンッ」体育館に響く音。
次元が違う……スーパーエース大崎大地との格の違いを見せつけられた気がした。
それでも……それでも、私達は負けない。
食らいついたやる。
そう思っていても、点差は縮まるどころか開いていく。初めは6点差だった点差が、気づけば12点差となっていた。
そして……。
「ピッピーー」
13-25で第一セットを狼栄に取られ、みんながベンチに帰って来る。
「みんな……」
莉愛がみんなに声を掛けようとした時、拓真達の声がそれを遮る。
「瑞樹、見えてるよな?」
拓真の言葉に反応し、瑞樹がニッと口角を上げた。
「にゃは。次は取れる」
その頼もしい瑞樹の言葉に、皆の口角も上がる。
「絶対に上げてみせる」
ああ、大丈夫だ。
ここからが、うちの見せ場。
反撃開始だ。
「瑞樹ここからだよ。見えているならチャンスはある。大丈夫、反撃開始よ」
「「「シャーー!!」」」
中継の谷が溜め息を付いた。
「はー。随分一方的な展開になってしまいましたね」
「そうですね。ですが、ここからでしょう。王者狼栄はこの舞台になれていますが、犬崎は初めてですからね。動きが硬いのは仕方が無いと思うんです」
「なるほど。犬崎の反撃ありですね」
第二セット開始のため選手達がコートの戻って来る。
「「「わーーーー!!!!」」」
観客席から歓声が上がる。
それに合わせるように谷が中継が始まる。
「第二セット犬崎高等学校の反撃はあるのか?1番大崎大地からのサーブから始まります」
「ナイスサー」
狼栄の控え選手から聞こえてくる声に合わせて、大地がボールを高く上げる。バックラインのかなり後方から助走を開始した大地は、エンドラインから流れるようにジャンプすると、体をしならせ手のひらでボールを叩き付けた。
上手い。
ジャンプサーブは攻撃力が高い反面、コントロールがしにくいと言われている。しかし大地のジャンプサーブのコントロールはかなり良かった。
「ドゴンッ」
破壊力のあるジャンプサーブが犬崎のコートに沈む。
悔しそうに奥歯を噛みしめ、顔を歪める瑞樹。
「くそっ!次は絶対に取る」
そう言った瑞樹を見つめた大地が、真っ向勝負を挑む。大地がもう一度ジャンプサーブを繰り出すと、瑞樹目掛けて放った。目の前に飛んでくるボールに合わせ瑞樹がステップを踏む。
ボールは瑞樹の手首に当たり床に沈むことは無かったが、後ろへと大きくそれていった。それを拓真が追いかけるも、大きく後ろへ跳ね上がったボールに追いつくことは出来なかった。
それでも触れることが出来た。瑞樹はビリビリと痺れる両手をグー、パーと何度か繰り返し実感する。
取れる気がする。
いや、違う。
次こそ取る。
瑞樹は大地のジャンプサーブを上げるため、ボールに集中する。腰を低くし、基本のレシーブ姿勢をとった。大きく深呼吸すると、大地のサーブが自分の数歩前に落ちると予測し、瑞樹は俊敏に反応し数歩前に出た。するとドンピシャで大地のジャンプサーブが瑞樹の腕の中に飛び込んできた。
「バシンッ」
今までとは違う、肌に当たる音。
それはボールが綺麗に上に上がった事を示していた。
上がった!
ネット際に上がったボールを祐樹がトスで上げ、後ろから走ってきた洋介が日本人離れした体躯を使い、バックアタックで決めた。
「ズバンッ」
その瞬間、体育館が大きな歓声に包まれた。
「おー!すげえ!大崎のジャンプサーブ取った」
「マジか!すげえな」
「犬崎のリベロやるなー」
中継の谷も興奮を抑えられずに、声を荒げた。
「犬崎高等学校リベロ竹之内瑞樹、強烈な大崎大地のジャンプサーブを綺麗に上げたー。素晴らしい。そして一点取ったー!」
それからの犬崎はすごかった。調子を上げた瑞樹が次々にレシーブでボールを上げ、得点が入って行く。狼栄も負けじと得点を重ねて行くも、二セット目を取ったのは何と、犬崎だった。予想をしていなかった展開に、狼栄の応援団も唖然としている。
「ウソだろ。追いつかれた」
「犬崎なんてストレート勝ち出来ると思っていたのに」
応援席からどよめきが上がる。
ふふふっ……。
私達が狼栄とここまで張り合えるなんて、思ってもみなかったのでしょう。
まだまだこれからよ。
「みんな、どう?まだいけるよね?次のセットは、向こうも今まで以上の力を出して来るよ。特に大地の攻撃には注意して。向こうは大地にボールを集めてくるはず。予想はしやすいわ。瑞樹、取れるわね」
「サーブだろうが、スパイクだろうが取ってやる」
「頼んだわよ。決勝は五セットマッチ、先は長いわ。でも、ここで手を抜いたらやられる。王者狼栄に食らいついて行くわよ」
「「「おおーー!!」」」
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