第24話
春高バレー群馬予選の実況中継が始まった。
「皆さんお待たせいたしました。これから始まるのは春高バレー予選決勝戦。ここまで勝ち残ったのは春高バレー常連校、王者狼栄大学高等学校、対するはシード校を破りここまで勝ち残ってきた新星犬崎高等学校。
「皆さん、こんにちは姫川翔です。よろしくお願いします」
「姫川さんもうすぐ始まります。二校による決勝戦ですが、どちらが勝つと思いますか?」
「そうですね……どちらが勝ってもおかしくないと思います。……が、狼栄には大崎大地が、犬崎には……あれ?」
「ん?姫川さん、どうされましたか?」
「いないんですよ」
「いないですか?」
「はい。女王がいないんですよ」
「ああ、SNSで騒がれたいた犬崎のマネージャーさんですね。そう言えば見当たりまさんね」
その時、犬崎の応援席が騒がしくなった。
「女王ーー!」
「莉愛様ーー!」
体育館の入り口に莉愛の姿はあった。髪を後ろになびかせ、颯爽と歩く莉愛の姿に、会場中の視線が集まる。これには谷も中継せずにはいられない。
「すごい声援です。今、ベンチにやって来たのは犬崎高等学校のマネージャー、女王こと姫川莉愛さんの登場だ。それにしても、すごい声援です。選手以上の人気と言っても良いでしょうか?」
「そうですね。それにしても今日の莉愛は、いつにも増して美人だな」
翔の物言いに、首を捻る谷。
「あれ?そう言えば、姫川さんと犬崎のマネージャーさんは苗字が同じですね」
「ああ、俺と莉愛は兄妹ですからね」
「そうでしたか。それで女王ですか?」
「いや、俺と兄妹だから女王って訳では無いですよ。ほら、見て下さい。女王のお出まし……コートに立ちますよ」
莉愛はアップをしている皆の元まで行くと、サーブを打ち始めた。すると『ズドンッ、ズドンッ』と、重いボール音が次々に聞こえてくる。これには谷も開いた口が塞がらない、と言った表情を見せる。
「こっ……これは、すごいですね」
「ねっ。すごいでしょう。うちの莉愛は男子顔負けのサーブをバンバン打ってきますよ。他にもトス、レシーブ、スパイク何でも出来るんです。けど、本人は選手としてコートには立ちたがらないんですよ」
「そうなんですか?もったいないですね」
「そう思いますよね。大人達は必死になった莉愛を選手としてコートに立たせようとしたのですが、ダメでした。何があったのか、バレーボールに触れることもしなくなった莉愛が、バレーの世界にまた足を踏み入れた。そうさせてくれたのが、犬崎の男子バレーボール部員達で、俺はあいつらに感謝しているんですよ」
「そうでしたか」
「はい。莉愛にバレーボールの楽しさを思い出させてくれたあいつらに、感謝しかないんです。あっ、すみません……もう、時間ですね」
「あっ本当ですね。ここから一人一人の名前が呼ばれ、スターティングメンバーの紹介です」
両校のスタンディングプレイヤーの名前がアナウンスされる。
「狼栄大学高等学校、1番キャプテン赤尾正隆、4番大崎大地、9番安齋学、11番大澤和彦、13番尾形仁、15番熊川貴志、コーチ金井貴広、監督神保歩。群馬県立犬崎高等学校、1番キャプテン津田拓真、4番近藤祐樹、6番立石充、8番小池流星、10番滝林洋介、12番竹之内瑞樹、コーチ、マネージャー姫川莉愛。これより群馬県春高予選決勝戦を始めたいと思います」
スタメンのメンバー紹介が終わり、各選手がベンチに集まった。スタメンの選手達は真剣な顔でコーチの言葉に耳を傾ける。
狼栄のベンチでは気合いを入れるため、円陣が組まれ、吠えるような選手達の声が体育館に響き渡った。
「俺達はここがゴールじゃ無い。今年も優勝して春高行くぞ!」
「「「おおーー!!」」」
犬崎のベンチでも莉愛の前に選手達が集まり、莉愛の話を真剣に聞いていた。そして最後に拓真達は莉愛の前に跪いた。それは勝利へのルーティン。莉愛はジャージ脱ぎ肩に掛けると腕を組み、クイッと顎を上げ妖艶に笑った。
「勝つのは私達よ。全てのボールを拾いなさい。そして私に勝利を捧げなさい」
「「「仰せの通りに」」」
莉愛は妖艶な笑みを浮かべたまま皆を見送った。その姿は、まるで騎士を戦場に送り出す女王のようだった。
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