第18話


 

 20分後。


「さあ、準備OK。メイク完璧」


「今日の髪型は動きやすいようにポニーテールのアレンジだよ」


 理花と美奈が莉愛の姿を確認して、満足そうに笑った。


「二人ともありがとう。行ってくるね」


「「莉愛、頑張って!」」


 その明るい声に背中を押される。二人にはいつも助けられてばかりだ。莉愛は拳を上に上げ二人に視線を送ると、理花と美奈も嬉しそうに拳を上に上げた。


 上げた拳に力を入れ、気合いを入れる。


 莉愛は理花と美奈に見送られ、準々決勝の舞台へと颯爽と向かった。


 何でだろう。


 理花と美奈にメイクしてもらうと、別人になったみたいに勇気が湧いてくる。不敵な笑みを浮かべ莉愛が廊下を歩くと、すれ違った全ての人が振り返る。



 圧倒的な存在感。



 さあ、楽しいバレーボールの時間だよ。



 もう一度、莉愛は心の中で気合いを入れた。




 第五回戦準々決勝、伊勢崎中央高等学校<対>犬崎高等学校。


「伊勢中ガンバー」


 伊勢崎中央高等学校の応援団が、声を揃えて応援を開始する。さすがはベスト4常連校だけあって応援団の格が違う。息のそろった応援に体育館の入り口で呆然と立ち尽くしている拓真達の喉が鳴る。


「みんな相手の応援に呑まれている場合じゃないわよ。一体何処を見ているの?いつも行っているでしょう。ボールを見なさい。あなた達が追いかけるのはボールよ」


 とは言ったものの、相手チームの応援は強烈だな。体育館に響き渡る声援。これはメンタルがやられそうだ。莉愛が溜め息を付いた時、大きな声援が飛んできた。


「「犬高等学校ガンバー!!」」


「「捧げよ!犬崎高等学校!」」


 観客席から理花と美奈がメガホンを使って応援してくれていた。


「「犬崎野応援は私達に任せて」」


 ウインクしてみせる二人に莉愛は頭を下げた。


 なんて頼もしい応援団なのだろう。


 いつの間にか集まった犬崎高等学校の応援団は、全員がメガホンを持ち応援を始めた。そろった応援に莉愛も、拓真達も呆気に取られる。


 いつ練習していたの?


 犬崎の応援団に背中を押されている気がした。応援の効果で運動能力がアップすると聞いたことがある。先ほどの応援団がいなかった時は動きが緩慢だった犬崎の選手達だったが、今はみんなの動きが違う。体育館の入り口付近でダッシュを繰り返す皆の顔が紅潮している。『応援は力になる』なんて言葉をよく聞くが、こんな時実感する。本当に言葉どおりだと。


 理花と美奈ありがとう。


 心の中で理花と美奈にお礼を言って、目の前の拓真達に視線を戻す。するとその時「ドンッ」という応援団の声もかき消す様なサーブ音が体育館に響いた。


「すげえ。4番の高野のサーブ強烈だな」


「狼栄の大崎みたいだな……」


 一年生コンビが顔をヒクつかせながら、ボールが転がって行くのを見つめている。そんな二人に莉愛が声を掛けた。


「昨日もミーティングで言ったけど、高野サーブは大地も匹敵するほど強烈だよ。高野のサーブが取れなければ、大地のサーブなんて絶対に取れない。でも、みんなはこの日のためにレシーブ死ぬ気で練習してきたわよね?」


 伊勢崎中央対策として私達はひたすらレシーブ練習を繰り返してきた。みんなの目が慣れるよう、莉愛は渾身の力を込めサーブを打ち続けた。それはみんなが血反吐を吐くほどに……。


「みんなは4番の高野のサーブがそんなに怖いの?私のサーブとどっちが怖い?弱気な事を言っているとペナルティー追加するよ」


 莉愛の言葉に犬崎の部員達が、顔面を蒼白にさせカタカタと震えだした。


「「「全く怖くありません」」」


 ふふふっ……そうでしょう。


「私達もアップ続き始めるよ」


 *


 コートに立った私達は軽くアップを開始した。


「おっ、女王様のお出ましだ」


「あれが噂の女王様?どこが女王様なわけ?確かに美人だけど」


「何でも部員達を跪かせるらしいよ。あれ?踏みつけるだっけ?」


「踏みつけるって……M集団かよ」


「美人に踏みつけられるんだから、最高なんじゃね?」


 伊勢崎中央高等学校の応援団から嘲笑う声が聞こえてくる。


 言いたい放題言ってくれるわね。


 噂が変な方向に行っている気がするし……。


 見ていなさい。


 そのおしゃべりな口が動かせないくらい、驚嘆きょうたんさせてあげる。


「どう、みんな体は温まってきた?最後にレシーブ練習するけどいい?」


「「「…………」」」


 莉愛の体から立ち上る黒いオーラに、部員達が震え上がる。


「返事が無いけど聞こえてる?あっ、そうそう。いつも通りレシーブミスった人は、帰ってからペナルティーあるから死ぬ気で取ってね」


 にっこりと笑った莉愛の目は笑っていなかった。


 その目を見た部員達は再び震え上がる。一番後ろで一年生コンビが、抱き合いながらプルプルと震えたいた。一番ペナルティーが多いのがこの二人だ。そのおかげか、身体能力が爆発的に上がったのだが、レシーブにかんしてはまだまだだった。


「女王様がサーブ打つみたいだぜ」


「マジで?女のサーブじゃ、うちの高野のサーブと差がありすぎて、試合になった時ビビるんじゃね?」



 その時……。



「ズドンッ」



  鈍いボール音が響き渡った。そして聞こえてくる莉愛の声。


「小池流星、ペナルティー」


 莉愛は次のボールを手に取り高く上げると、渾身の力を込めてジャンプサーブを打ち込む。


「ズドンッ」


 更に鈍い音を立ててボールが体育館の床に食い込み、跳ね上がった。


「滝林洋介、ペナルティー」


 莉愛が楽しそうに黒い笑みを浮かべる。


「小池、滝林の一年コンビは、ホントにペナルティーが好きだね」


 そう言って次々にジャンプサーブを打ち込む莉愛。そんな莉愛の姿に伊勢崎中央高等学校の部員達も、応援団も目が釘付けとなった


「グーパンでサーブ打ち込むとか人間業じゃ無いだろう」


「あれが女のサーブかよ」


「えげつな……」








































































 





























































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