第17話
次の日、第二試合を前に体育館のロビーがザワついていた。
「あっ……来たぞ」
「え……?どれどれ?」
「あれが女王様?」
ん?
女王様?
‥‥何なんだろう
皆がこちらを見ている様な気がする。
何だか嫌な予感が‥‥。
そこに充が慌てた様子で走って来た。
「姫川さん大変だ。今、友達から連絡が来たんだけど、昨日の試合のことが噂になってるって」
「それって、犬崎が勝ったから?」
「違う!体育館に女王様現るって!」
はぁ?
「スタメンを跪かせる女王様って」
それを聞いた瑞樹がにゃははっと笑い出した。
「だよね。昨日のあれは女王様だったよね~。でも、そのおかげで俺達も目が覚めたって感じだったし」
「そうそう。それに高崎英明のメンバーに最後に言った言葉、痺れたよな」
「痺れた、痺れた!『私達は上に行く、悔しかったら下克上お待ちしています』って言うやつ、やばかったよなー」
「高崎英明高等学園のメンバー全員、姫川に惚れたんじゃ無い?みんな見惚れてたもんな」
1年コンビが莉愛の声まねをしながに嬉しそうに会話しているのを、莉愛は血の気の引いた顔で聞いていた。
スタメンを跪かせる女王様……。
だから……みんな私を見ているわけ?
ウソでしょう……。
もはや一年生コンビの褒め言葉など、莉愛の耳には入ってこない。『跪かせる女王様』その言葉だけが莉愛の脳内を埋め尽くしていた。
「みんな……私……今日ベンチ入らない。ゴメン、頑張って」
それを聞いた拓真達が慌て出す。珍しく祐樹も眼鏡を指で上げながら慌てている。
「何を言っているんだ。ダメだよ。姫川がいないと俺達は力が出し切れないよ」
「そうだ。それに姫川も犬崎の7人目のメンバーなんだ」
私も……犬崎の7人目のメンバー?
キョトンとしている莉愛に、流星と洋介が肩を組み親指を立てた。それを見た犬崎のみんなが莉愛に向かって親指を立てる。
うわーっ……すっごく嬉しい。
莉愛の胸がじんわりと熱くなっていく。
私は何を逃げているんだ。
こんな所で逃げてなんていられない。
上に行くと決めたんだ。
振り返ることも、立ち止まることもしない。
進むんだ。
親指を立てるみんなに向かって、莉愛はフッと笑った。
「みんなありがとう。女王様……いいじゃない。なってやるわよ。女王様に!」
*
第二試合、渋沢川高等学校<対>犬崎高等学校の試合が始まろうとしていた。
「みんな第二試合が始まろうとしているけど大丈夫?」
莉愛はベンチの前で、皆の顔を一人一人確認するように見つめていく。
うん。
みんな良い顔をしている。
第一試合の時の顔がウソみたいだ。
頷く莉愛の顔を見た拓真がニヤリと笑った。
何か企んでいる顔ね……。
「じゃあ、みんな例のやつ、やりますか?!」
拓真がそう言うと、全員が莉愛の前に跪いた。
ああ……そう言うこと。
女王様になってやるって言ったもんね。
莉愛は髪をほどき、ジャージをマントのように肩に掛け腕を組むと、妖艶に笑い顎をクイッと上げた。
「みんな分かっているわね。第一試合の時のような弱音を吐くことは許さない。私に勝利を捧げなさい」
「「「仰せの通りに」」」
莉愛の前に膝を付き頭を垂れていたスタメンメンバー達が、声を揃えた。
おっ……仰せの通りにって……何?
それ口裏を合わせてたでしょう。
言ってよ。
何で私だけ除け者。
ぐぅぬぬぬ……。
心の声が漏れないよう、ヒクつきそうになる顔の筋肉を引き締め、心の中で悶絶する。
それにしても、みんな楽しそうな顔をしちゃって……。
頑張れみんな、この試合も勝つよ!
*
「ピピーー!!」
試合開始のホイッスルが響き渡る。
第二試合、第一セットは犬崎高等学校からのサーブで始まった。
拓真のサーブが渋沢川高等学校のコート目掛けて飛んでいく。そのボールは誰の手にも触れること無く、コートに沈んだ。
サービスエース!
最高の立ち上がりだ。このまま最後まで行きたい。
天井高く上がるボール、それを追いかける選手達。トスを上げ、ジャンプし、持てる力を尽くして、ボールに食い下がる。
繋げ……繋げ……ボールを落とすな。
ボールを上げさえすれば必ず繋がる。
みんなの思いをボールに込めて、打ち込め!
「ピピーー!!」
二回戦勝利。
三回戦勝利。
四回戦勝利。
莉愛達犬崎高等学校は順調に勝ち進んでいった。
*
「おい、聞いたか?犬崎高等学校がベスト4だってよ。シード校破ったってさ」
「マジか、犬崎ノーマークだったな。有名な選手でも入ったのか?」
「さぁ~?でも、女王様がいるってよ」
「はぁ?女王様?女王様がいたって、女なら試合には出られないだろう?」
「だよな?」
そんな声があちらこちらから聞こえてくる。
莉愛はその声が聞こえないようにロビーの隅で膝を抱え、耳を塞いでいた。
ヤダ、嫌だ、もう無理。
更に噂が広がっている気がする。
そんな莉愛の様子を見た瑞樹が、にゃははっと笑った。
「うちの女王が小さくなってるー」
「瑞樹ちょっと静かにしていろ」
拓真が莉愛の様子を心配しながら近づいて来た。
「大丈夫か?今日は助っ人を頼んだから、姫川も元気が出るはずだよ」
助っ人?
莉愛が首を捻っていると、そこに現れたのは……。
「はぁ~い。みんな頑張ってる?」
「私達が来たからには、莉愛は大丈夫よ」
その声に振り返ると、赤いメガホンを持った理花と美奈が立っていた。
「理花!美奈!」
勢いよく立ち上がった莉愛は、理花と美奈に抱きついた。よしよしと莉愛の頭を撫でた理花と美奈は、莉愛をその場から連れ出した。
「みんな莉愛借りてくよ。状況は分かってるから」
「莉愛はこっち来て。始めるよ」
分かってるって何が?
始めるって、何?
これから試合なのに何処に行くの?
ひぇ~何するのー。
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