第16話


 「ピーー!」


 試合開始のホイッスルが鳴り響いた。


 サーブ権を先に得た高崎英明の5番西野が、思いっきりサーブを打ち込んできた。


「もらったぜ!」


 そう呟いた西野だったが、ボールは床に触れること無く「パンッ」と肌に当たる乾いた音を立てて、天井に向かって上がった。ボールを上げたのはリベロの瑞樹だ。


「上げたぞ。祐樹頼む」


 祐樹が眼鏡をクイッと上げ口角を上げる。


 瑞樹から祐樹に繋げられたボール。これを必ず相手のコートに沈めたい。


 皆がそう思った。


 祐樹の対角から走ってきた洋介を確認した祐樹が、絶妙なタイミングでトスを上げると、洋介が左手で相手のコートへとスパイクを打ち込んだ。するとバンッという小気味よい音を立てて、ボールが床を跳ねた。


 シンと静まり返る体育館に、洋介の雄叫びが響く。


「シャーー!!」


 犬崎の速攻が決まった瞬間だった。


 洋介の雄叫びに合わせるように、拓真達も声を掛け合う。


「瑞樹、祐樹、洋介ナイス!」


 先制点、三人とも良くやってくれたわ。これで流れはこっちに来た。莉愛もみんなと同じように、三人に声を掛けた。


「瑞樹、祐樹、洋介ナイス!」


 すると皆が一斉に莉愛へと視線を向けた。


 なっ……何?


「マジかよ……姫川さんが名前で呼んだ」


「頑なに苗字呼びだったのに」


「なんか……感動……」


「何で三人だけ?」


「俺らは?」


「三人だけなんてずるいぞ」


 瑞樹、祐樹、洋介、流星、充、拓真の順に驚きの声が上がる。


 感動するところ、そこ?


 もっと先制点を取った事を喜んでよ。


 苦笑いをする莉愛をよそに、みんなが声を掛け合う。


「姫川に名前を呼んでもらえるように頑張るぞ」


「「「「「「おおーー!!」」」」」」


 えぇーー?!


 だから気合いを入れるところは、そこじゃないと思う……。



 *



「充、ブロック」


「まかせろ」


 バシンッという音と共にボールが転がって行く。


「よっしゃーー!」


 先制点を取り流れを掴んだ犬崎は、その勢いのまま得点を重ねていった。そんな犬崎を止める術を高崎英明高等学園は持ち合わせていなかった。気づけば犬崎が第一セットを取り、第二セット14-24あと1点で勝負の決まる局面、犬崎が勝利に大手を掛けていた。


 *


 高崎英明高等学園の時東達の息が上がる。西野も汗が床に落ちる前に右手の甲で汗を拭おうとするも、溢れ出す汗に困惑する。


 何なんだこいつらは、春に練習試合をした時とは明らかに違う。全く違うチームと試合をしているみたいだ。何をやったらこんな短期間でここまで強くなれるんだ?それでも俺達だって必死に練習してきたんだ。


 俺達とこいつら、一体何が違うんだ。


 どこで差が付いたんだ。


 心臓がドクドクと音を立てる。


 無理だ……俺達はこいつらに、犬崎には勝てない。


 高崎英明のブロックしたボールが大きく放物線を描いて後ろへと飛んでいく。それを西野達は追いかけるのを止めた。


 *


「ピピーー!!」


 試合終了のホイッスル。


「試合終了2-0で勝者犬崎高等学校」


 審判のジャッジ後、拓真が歓喜の声を上げた。


「勝ったぞ!」


「「「シャーー!!」」」


 今日一番の笑顔を見せる犬崎高等学校のメンバーとは対に、高崎英明高等学園の選手達は肩を落とし小刻みに震えていた。涙を必死に我慢しているのだろう。勝者が決まれば敗者も決まる。勝負の世界は白黒がはっきりしている。しかたのないことだ。引き分けは無いのだから。


 勝利を喜び合う私達の元に、西野がやって来た。


「お前ら練習試合の時は手を抜いていたのか?そうやって俺達を油断させて、あざ笑っていたのか?」


 はぁ?


 この人は何を言っているの?


 最後の最後まで失礼すぎる。


 不躾ぶしつけな西野の言葉に、前に出ようとした莉愛を制し、前に出たのは拓真だった。


「別にあざ笑ってなんていない。敗北したときの悔しさを知っているのは俺達だ。俺達はもう負けたくない。勝利を捧げると約束した。だから本気で……必死に練習してボールを追いかけて、繋いだ。その結果が今日出たまでだ」


 拓真の言葉にチームが一丸となった気がした。犬崎みんなの口角が上がる。


「俺達だって……俺達だって必死に練習してきたんだ……」


 悔しそうに両手を握り絞めて俯く西野の肩を、時東が優しく叩いた。悔しくて仕方に無い様子の西野が更に食いついてきた。


「俺達とお前達の差は何だったんだ?!」


 莉愛は溜め息を付きながら西野の前に立った。


「そんなに悔しいなら最後のボールをどうして諦めたの?全力で走れば取れたボールだったでしょう?あなた達は試合終了のホイッスルが鳴る前に、自分たちの中で試合を終了……放棄した。その時点であなた達の負けだった」


「それは……」


 高崎英明高等学園の選手達全員が、力なく俯いた。


「私達は上に行く、私達は諦めない。高崎英明の皆さん、悔しかったのなら下克上お待ちしていますよ。さあ、みんな行くよ」


 顔を上げた高崎英明高等学園の選手全員の喉がゴクリと鳴った。莉愛の妖艶に笑う格好いい姿、発言に見惚れるしかなかった。


「やばっ……」


「すげー……格好いい」









































































































































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