第14話


 莉愛は大地に手を引かれ、笑顔で体育館から飛び出した。それからは人目を避けるように走り、空き教室を見つけると、そこに身を隠した。


「はぁー。疲れたね」


 莉愛と大地は肩を上下させ、息を荒げながら床に座り込んだ。


「ほんと、疲れたな」


「お兄ちゃん、大丈夫だったかな?」


「翔さんには後で、謝りに行かなくちゃだな。こんな騒ぎ起こして、全部翔さんのせいにして……」


 その時、莉愛のスマホが鳴った。理花からのメールだ。


『莉愛お疲れ様~。今日はゴメンね。翔さんのおかげで何もお咎め無しだよ。片付けは大丈夫だから、そのまま帰って良いよ』


 理花からのメールを読み終わると、今度は美奈からメールが届いた。


『莉愛~!お疲れ様!私達が調子に乗ったせいで、ごめんね。翔さんにも迷惑掛けちゃった。今度きちんと翔さんに謝りに行くね』


 莉愛は理花と美奈にメールを返信した。大丈夫だよと、反省している二人にこれ以上言う言葉は無い。莉愛の隣では何かあったのかと、大地が心配した様子でメールの返信が終わるのを待っていた。



 俺は莉愛がメールの返信をし終わるのを待った。


「大地そんな顔しないで、大丈夫だよ。お兄ちゃんが上手くやってくれたみたい。このまま帰って良いって」


「そっか……」


 そう言うと俺は黙った。俺の様子に莉愛は不安になってしまったのだろう。小さな声で謝ってきた。


 莉愛が悪いわけでは無いのに。


「大地ごめんね。巻き込んじゃって……」


「別に全然大丈夫だよ。でも……島谷さんの事は相談してもらいたかったよ」


 こんな事を言いたいわけじゃないのに。


「うん……ごめんなさい。島谷さんはいつもあんな調子だし、本気じゃないと思って……」


「莉愛、今日の勝負で分かったでしょう?島谷さん本気だったよ」


「……っ……うん」


「莉愛は莉愛が思っている以上に、魅力的な女の子なんだ。莉愛と出会った人間は、みんな莉愛のことが好きになる。お願いだから自覚して、注意しないとダメだよ。特に俺以外の男には気をつけて」


「……うん」


 頷く莉愛の瞳を大地が覗き込むと、自分を映す大きな黒い瞳が、ゆらゆらと揺れていた。今にもこぼれ落ちそうな涙が、瞼の縁に溜まっている。涙を我慢するその表情に、大地の心臓は鷲づかみにされていた。苦しくなるほどグッと、締め付けられる心臓。


 大地は「はぁーー」と大きく溜め息を付いた。


「心配だ……心配すぎる。そういう顔は俺以外には見せないでね」


「こんな男みたいな顔みたって、男子は何とも思わないよ」


「またそう言う……」


 何にも分かっていない様子の莉愛を、大地は抱き寄せた。


「莉愛よく聞いて、さっきも言ったけど莉愛は魅力的な女の子なんだよ。どんな男が莉愛に近づいてきても、俺は莉愛を手放すつもりはない。今日の勝負も勝つつもりだった」


 莉愛は誰にも渡さない。大好きなバレーボール以上に、こんなにも好きになるモノがあるなんて……。手放したくない。一生俺のモノにして、閉じ込めておきたいと思ってしまう。なんて重たい感情なのだろう。それほどまでに、俺は莉愛に惚れているんだ。莉愛に出会ったあの日、莉愛という存在に気づかせてくれた何かに感謝したい。その何かが神様なら、俺は神という存在を信じるだろう。普段は信じないあなたを……。莉愛に出会うのが数ヶ月遅れていたら、俺も島谷さんのように知らない誰かに莉愛を奪われていたのかもしれない。そう思うとぞっとする。震えそうになる体に力を入れ、ふと莉愛を見ると俯いていた莉愛が恥ずかしそうに耳まで真っ赤に染めていた。


「うん。ありがとう大地、すっごく格好良かった。絶対に大地が勝つって信じてた」


 信じていた……。


 莉愛のその言葉が嬉しくて、莉愛を抱きしめていた大地の腕に力が入る。


「莉愛、好きだよ」


「私も大好き」


 二人の顔がゆっくりと近づき、唇が重ねられた。優しく甘いキスは二人の気持ちを更に強固なものとした。





  








































































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