第12話


 夏休みも終わり、春高予選に向け私達犬崎バレー部は、より一層気合いを入れていた。その一方で、学校全体がいつもとは違う雰囲気を醸し出していた。それというのも、今週の土、日で行われる文化祭の準備のため、生徒達がウキウキと作業を行っている為だった。しかし莉愛に、その作業を手伝っている暇は無かった。


「準備手伝えなくてゴメン」


「いいよ。部活大変なんでしょう。大丈夫だって」


「そうそう、莉愛には文化祭当日頑張ってもらえれば大丈夫だから」


 そう言ってくれたのは理花と美奈で、回りにいた子達も「大丈夫だよ」と笑ってくれた。


「ありがとう。行ってきます」


「「行ってら~」」


 手を振る二人を背に、莉愛は玄関に向かって走り出した。笑顔で走り去る莉愛を見つめていた女子達が頬を赤らめた。


「今日も眼福!」


「このクラスで良かった」




 *



今日は文化祭準備のため体育館が使えない。そのため私達は外に出て走り込みを開始していた。ここは赤城あかぎ大鳥居おおとりい。ここから上は、とにかく傾斜のキツい登りのみの道。下り坂の一切無いこの道は、ヒルクライムという登りの自転車競技にも使われる場所。勾配こうばい角度9.7%と言われるこの道は、普通に歩いて登ってもキツい上り坂だ。学校の裏にあるこの道は犬崎高等学校の運動部員達にとって、大切な練習場所となっていた。


「ダッシュいくよ」


 莉愛が吹くホイッスルに合わせ、赤城の大鳥居に向かってダッシュで駆け上がる。二人一組になって、キツい勾配をダッシュで駆け上がる部員達を莉愛は見つめた。


 しんどそうだな。


 でも、ここが頑張りどころ。


 筋肉が悲鳴を上げようが痛めつける。


 数本のダッシュを繰り返すと、汗だくの部員達は少し開けた場所での寝転がった。


「きっつー」


「俺、吐きそう」


 拓真と充が弱音を吐く。その他の部員達は声を発することも出来ず、肩を上下させ、ひたすら呼吸を整えようと必死になっていた。


「みんなお疲れ様」


 水分補給をさせるため一人一人にスクイズボトルを手渡しながら、莉愛は笑顔で次のトレーニングメニューを口にした。


「10分休憩したらまたダッシュ開始するよ。それからなた少し休憩して、次はランニングね。もちろん上りだから」


 莉愛の笑顔に全員が青ざめた。


 鬼だ……。


 皆がそう思ったのと同時に「うぷっ」と、こみ上げてくる物を感じたのだった。


















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