第11話


 莉愛のやつ相変わらず、すっげーな。


 中学時代と変わらない美しいフォームに、翔は目を細めた。莉愛はいつもおれが天才で、自分は違うと言うけれど、本物の天才は莉愛の方だ。見ただけで相手のワザを吸収し、やってのける。初めて組んだチームでも、チーム一人一人の癖を知り合わせることも出来る。そんな莉愛にいつも練習を手伝わせていたおかげで、俺はここまで強くなれた。対戦チームのエースのワザを莉愛に覚えさせ、練習台にさせた。癖が分かれば対処も出来る。だが、莉愛の強さはそれだけでは無い。それは空中での美しさだ。初めて見る物の心を鷲づかみにし、誰もが見とれてしまうほどの美しさ。そして二度目には恐怖さえ覚える、えげつな威力。女子はたまった物では無いだろう。

 

 莉愛は生まれてくる時代を間違ってきてしまったのだろうか?もう少し後の時代ならば、ライバルとなりえる選手も出てきたのだろうか?ライバルがいないと泣く莉愛を、俺は何度も慰めた。


 そんなある日、莉愛がバレーを辞めた。俺はバレーボールの楽しさを思い出してほしくて、必死に莉愛を体育館へと連れ出した。しかし、暗い顔をした莉愛を笑わせることは出来なかった。


 くそっ……どうすれば良いんだ。


 これだけの才能をここで埋もれさせるなんて……。


 莉愛がバレーを辞めてから俺はいつも、そんな事を考えていた。莉愛の才能を知る大人達が必死に説得を試みた。しかし、莉愛がバレーボールを始める事は無かった。高校も犬崎を受験すると聞いたとき、大人達も俺も落胆した。犬崎に女子バレーボール部は無い。それは莉愛の絶対にバレーボールはやらないと言う、決意の表れだった。


 その莉愛が突然電話を掛けてきて、練習試合の相手を探していると相談してきた。俺は耳を疑った。そして歓喜した。また莉愛がバレーを始めてくれる。しかし、それは俺の勘違いだった。


「莉愛がバレーボールをするんじゃ無いのか?」


「違うよ。男子チームの相手を探しているの」


 喜びから一転、俺は肩を落とした。それでも莉愛がバレーボールに関わろうとしていることが嬉しかった。それからしばらく、莉愛の話を聞いた。電話越しの莉愛が楽しそうで、莉愛の力になりたいとそう思った。すぐに群馬国際大学の高橋に電話をして合宿を頼んだ。


 そして今、男子チームと一緒にバレーボールを楽しむ莉愛を見つめた。


 あんなに楽しそうな莉愛を見るのは久しぶりだな。


 楽しそうにボールを追いかける莉愛の姿に、頬が緩む。


 良かったな莉愛。自分が試合に出られなくても、あいつらのおかげで、バレーボールの楽しさを思い出せたんだな。




 *



「「「ありがとうございました」」」


 充実した合宿生活が終わりを告げた。体育館に向かって頭を下げる犬崎バレー部員達。


「よく頑張ったな。春高予選頑張れよ」


 そう言ったのは翔だった。満足そうに笑顔を見せながら、莉愛の頭を撫でた。莉愛は兄に頭を撫でられながら嫌がる様子も無く微笑んだ。そんな二人の姿に、皆から溜め息が漏れる。


「美形二人が笑うと絵になるな」


「うん。何だか見てはいけない物を見ている感じがするのは俺だけ?」


「BL的な?」


 そんな中、一人だけ騒いでいる人物がいた。


「莉愛ちゃん俺も連れて行って、一緒に行く」


 泣きながら莉愛に抱きつこうとしているのは島谷だった。


「お前は少し落ち着け」


 泣き暴れる島谷を止めているのは高橋さんだ。莉愛は島谷を無視し、お礼の言葉を述べた。


「群馬国際大学の皆さん、お兄ちゃん、無理を聞いて下さってありがとうございました。とても為になる一週間でした。見ていて下さい。必ず春校へ行って見せますから!」


 莉愛がニコッと笑って見せると、群大の皆が嬉しそうに笑って、右手の拳を前に突き出してきた。


「おう、頑張れよ」


「応援しているぞ」


「絶対、春高行けよ」


 私達も右手の拳を前に突き出した。


「「「うっす!!」」」

































 












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