半分殺す

「さが、して、た、?」

必死に脳内で記憶を辿る。でもいくら考えても、この男の人に会った覚えなんかなかった。

「あの、人違いじゃないですか?」

手が自然にベットのシートを掴んだ。

「いいや、俺が探していたのはお前だ」

食い気味で男が言ってくる。

「でも、私、会ったことないし、」

男が立ち上がる。

「そりゃそうだ。一方的に俺がお前を探してたんだから。お前は俺のことを知らなくて当然だ。なかなか見つからないから、最近諦めようって思ってたんだけどさ、帰る途中にお前道で倒れてるんだもん。ほんと、何これ?運命?俺ら運命の出会い的しちゃった?」

この男はどんな神経をしているのだろうか。

探していたとはいえ、身元もわからない高校生を持ち帰ってベッドに寝かせていたんだぞ。

それでこの余裕の態度。普通だったら通報されて逮捕だ。怖いとか、不安とか通り越して、もはやこの人の度胸のある行動に呆れて笑いそうになる。

「私を探していたのはわかりました。でもどうして私を探してたんですか?」」

この時なんで私は気づかなかったんだろう。本当は目が覚めた瞬間、ここから逃げなきゃ行けなかったんだ。目の前にいるのは大人の男の人。考えられることが、思い当たることが、私にはたくさんあるじゃないか。なぜ、なぜ、気づかなかった、、

「お前、夜の仕事してるだろ」

一番つかれたくない部分をつかれた。こういうリスクも承知の上だとしっかりと理解できていなかった。

「黙ってるってことは、やっぱり、そうなんだな」

「何が言いたいんですか??」

「随分強気だな。自分が何をしているのか理解しているのか?」

「理解しています。」

「お前、高校生だよな」

「危ない橋を渡ってることはわかってる。」

「高校生が金を稼ぐ方法なんてもっと他にあるけど?」

「、、、私には、このやり方しかないの、」

軽く言い合いになる。すると、男が今度はベッドに座りだした。距離がさっきよりもずっと近くなる。そして、私の顔をまじまじと見てきた。

「何?」

「でも、その顔だったらバレない?未成年って」

私の顔はそんなに童顔か、とは突っ込めなかった。実際に、バレそうになったことは何回もあるからだ。

「だったら何?」

動揺を悟られないように、なんとか態度を大きくする。すると、もっと男は顔を近づけてくる。自然に私の体が後ろに下がる。

「早く大人になりたいとか、思わない?」

驚いた。ドンピシャだった。背中に寒気が走る。男の目は少し垂れ下がっていて優しそうなのに、何もかもを見透かされているような気がした。昼間の、羽山みたいに。唯一違っていたのは、その目線に少しの疑いもなかったことだ。よっぽど自分の意見に自信があったのだろう。

どうやって返していいか分からずに、黙っていると、男が口を開いた。

「黙ってるってことは、思ってるんだね?」

「、、、、あなたは一体、なんなの、、?」

回り回ってすごく基本的な疑問になった。

「俺の名前は桐谷雅人。ある物の商売をしている。」

「ある、物、?」

「薬だよ。」

「え、、、」

「大丈夫。寝てる間にお前の体に何かしてたり、無理矢理売りつけたりしないよ。」

「、、、、、なんの、薬?」

夜の仕事をしている女子高生狙いの薬。この人がどんなにいい人だったとしても、怪しくないわけがない。

「んー、そうだなぁ、。」






「自分を半分だけ殺す薬かな?」










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半分の私 @ittcyan

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