31 付き添い
こんな夜に病院の待合室に居るのは変な感じだな、と達己は思った。彼は長い間、そこで待たされていた。彼はネクタイを緩め、スマホを操作した。帰るときにはタクシーを呼ばねばならないだろう。今居る病院が一体どの位置にあるのか確認していた。
脩斗は割と、自分の体調管理ができている方だと達己は思っていた。風邪をひいたときも、達己に任せると連絡が来たし、そんなに無理はしないタイプだと感じていた。
なので、今回のようにいきなり倒れたということは、何か重大な病気では無いかと達己は気をもんでいた。
ようやく、看護師から声がかかった。
「
「はい!」
達己は迷わず返事した。
「CT、MRI、血液検査では異常がありませんでした」
頭痛がすると言っていた脩斗だったが、脳梗塞だとか、腫瘍だとか、そういう深刻な事態にはなっていないとのことだった。ただ、水分を口から取れておらず、あと三十分ほど点滴をしてから帰宅できるということだった。
「頭痛外来を受診してもいいかもしれませんね」
「はあ、そんなものがあるんですか」
「ええ。ご自宅の近くのところで探してみてはいかがでしょう」
とにかく、大事には至らなかった。達己は自動販売機に行き、缶コーヒーを買って飲んだ。そして、財布の中身を思い出した。そんなに持ち合わせは無い。クレジットカードは使えるだろうか、と彼は考えた。
「済みません、達己。ご心配をおかけして……」
やや覚束ない足取りで、脩斗が処置室から出てきた。
「別にいいって。とりあえず帰ろう」
達己は脩斗を会計の席まで誘導し、座らせた。彼が思ったよりも高額の医療費が請求されたので、クレジットカードで支払った。それから達己は、配車アプリでタクシーを手配しようとした。
「住所、どこだっけ?」
「ああ、僕が入力しますよ」
達己からスマホを借り、脩斗は自分の住所を打ち込んだ。そんな様子を見る限り、もう大丈夫になったのかと達己は思った。
「今はどんな感じ?」
「まだちょっと頭痛がしますね……。でも、さっきみたいに身動きできない感じでは無いです」
二十分ほどして、タクシーが来た。それに乗り、脩斗の住むワンルームマンションまで彼らは向かった。達己がそこに来たのはこれが初めてだった。家の鍵は、幸い脩斗のスラックスのポケットに入っていた。
「もうここでいいですよ、達己」
「いや、遠慮すんなって。ベッドまでは見送る。それとも相当家汚いのか?」
「そんなことはありませんよ」
脩斗の言った通り、彼の部屋は物は多いが整然としていた。狭い一室だが、ダークブラウンのカラーで揃えられたインテリアのセンスは良く、いかにも彼らしい部屋だと達己は思った。
部屋着に着替えると、脩斗は五分と経たない内に眠ってしまった。達己は勝手に見るのは悪いかとは思いながら、冷蔵庫を開けた。フルーツ類と、調味料の他は、ほとんど何も入っていなかった。
達己はしばし迷ったが、鍵を使い、一度部屋を出てコンビニへ行った。その前で一本タバコを吸った後、ゼリー飲料やスポーツドリンクを買ってまた戻ってきた。
「おい、シュウさん。心配だから今夜はここに泊まるぞ。いいな?」
返事は無かったが、達己はソファに寝転がり、目をつむった。彼も相当疲れていた。日付は変わっており、クリスマス・イブは終わってしまっていた。
それから達己は、店のことを考えた。脩斗はしばらく安静にしておいた方がいいだろう。となると、自分が一人で立つ必要がある。
確か、ハノンとセツナがイブの夜に来ると、脩斗から聞かされていたことも思い出した。彼らには悪いことをしたなと考えつつ、うめき声が聞こえたので、達己は身じろぎをして脩斗の眠るベッドの方を見た。
「……あれ? 達己?」
目を覚ました脩斗が、こめかみを押さえながら上半身を起こした。
「おい、無理すんな。寝とけよ」
達己はベッドに近付き、脩斗の背中を支えて横にならせた。
「済みません、店に着いてからの記憶があやふやで……」
修斗はこめかみを押さえ、目を閉じた。
「ああ、開店前に店で倒れちまったんだよ。それから救急車呼んで、病院行って、ここに帰って来たってわけ」
「そうでしたか……。ご迷惑をおかけしました」
「いいって。原因はよく分かんねーけど、しばらくは動くな。頭痛外来ってとこ、行くといいかもってさ。喉、渇いてないか?」
「いえ、大丈夫です」
それから脩斗は、ぼおっと天井を見つめていた。まだ全身の感覚がだるかった。救急車、と言われて、点滴の針を刺されたり検査をされたりしたことは思い出したが、どうやってこの部屋まで帰って来たのかは定かでは無かった。
「心配だから、泊まってくぞ。どのみち今日はラストまで立つ予定でいたしな」
「そうだ、お店……」
「心配すんな。俺が何とかする」
再び脩斗が寝息を立て出したのを確認して、達己はソファに丸まった。
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