物語は終わらない

「で、いろいろあったけどもうそろそろ帰るのかい?」


 机の上にあった紅茶も空になり、外を見ればきれいな夕焼けが広がっていた。


 どうやら局所的な雨雲は去っていったらしい。


 今ならラブライトも特に問題なく帰れるだろう。


「ううん、せっかくだからもう少し居ようかなって」


 けれど彼女はまだ何かやりたいことがあるようだった。


「あなたが良いならなんだけど、もう少しだけ私が訳した世界の事を――あの妖精についての会話を楽しみたいの」


 そういう彼女の目は少し遠い所を見ているようで、僕はなんとなく彼女の思いを察する。


「ほら、あの子の話を一緒に出来るのは今はあなただけだし。それに――」


「話をされることをあの妖精の子もきっと喜ぶから、だろ?」


 そう答えた僕の言葉に昔からの親友はやさしく微笑む。


 そのうち彼女は本の続きやまた別の物語を訳して持ってくるのだろう。


 でも、それはその時に話せばいい。


 今は僕が追体験したばかりの、あの子のことやあの世界に思いを馳せてもいいだろう。


 『誰かに何か想いを伝えられてこその物語――』


 そう言っていた彼女が訳した、僕の知らない世界で妖精が伝えようとした物語。


 その物語の想いは今確かに、この小さな古書店の中に広がっているようだった。

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妖精のいるセカイ 曹灰海空 @SSLabradorite

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