金髪不良、極道お嬢との約束

 それから数時間が経過して、午前の授業が終わり昼休みとなった頃、約束通り次郎は屋上へとやってきた。


 そこには既に先客がいたようで、その人物は扉の開く音に反応してこちらへと振り向いた。


「……遅い」


「悪かったな」


 不機嫌そうに呟く智絵に対し、ぶっきらぼうに返す次郎。そんな彼の態度を見て、更に不機嫌さを露わにする彼女であった。


「ていうか、自分から呼び出しておいて、その言い草はないだろ」


「うっさい。早く座って」


 次郎の言葉に対して素っ気なく返しながら、智絵は次郎が来る前に広げておいたレジャーシートの上に座り込む。そしてレジャーシートを手でポンポンと叩いて彼に座る様に促してくる。


 その様子に軽く溜息を吐きながらも、言われた通りにする次郎。そして二人の間に沈黙が訪れる。


「……」


「……」


 気まずい雰囲気が流れる中、先に口を開いたのは次郎の方だった。


「それで、話って何だよ?」


「……何だと思う?」


 質問を質問で返してくる智絵に対して苛立ちを覚える次郎であったが、ここでそれを表に出す程子供ではないつもりであり、何とか堪えた。


「分からないから聞いてるんだよ」


「……本当に分かんないんだ」


「はぁ?」


 要領を得ない彼女の言葉に苛立ちよりも困惑の方が強くなる次郎。


 だが、彼女はそんな事など気にせずに言葉を続けてくる。


「何で分からないかな。だいたい、こんな風に準備していたら、普通は気が付くでしょ」


「いや、全然分かんねぇんだけど……」


 呆れたように言う彼女に、困惑した様子で答える次郎。それに対して智絵は大きく溜息を吐いた。


「この鈍感……普通ここまでヒントがあったら分かると思うんだけど」


 そう言ってジト目を向けてくる智絵に対して、少しムッとする次郎。


「そう言われてもな……」


 次郎としては思い当たるものがなかった為、答えようがないというのが本音であった。すると、痺れを切らしたのか、智絵が答えを言ってきた。


「あぁ、もう。今は昼休みなんだから、これぐらいしか選択肢がないでしょ」


 そう言って智絵は自分の背後に隠していたものを取り出した。それは弁当箱であった。


 といっても、雪乃みたく重箱の様な重厚感のあるものではない。ごくごく一般的な一人分のサイズだ。


「これは……?」


 意味が分からず首を傾げる次郎に対して、智絵は少し視線を逸らしつつ、恥ずかしそうな態度で答えた。


「お、お弁当よ」


「いや、見れば分かるけど……」


 彼女の言葉に対して、呆れた様な声で返事をする次郎。しかし、そんな態度が気に入らなかったのか、智絵は少し怒った表情で言葉を続けた。


「あんたね、少しは察しなさいよ」


「察するも何も、なんで急にこんな事になっているのかが分からないんだが……」


「その……この間の、お礼よ」


 次郎の言葉に恥ずかしそうにしながらも素直に答える智絵。その頬は若干赤く染っていた。


「この間、助けてくれたでしょ。だから……そのお礼。あんたって、いつもコンビニや学食のパンとかばかり食べてるから……その、作ってきてあげたのよ」


 彼女の言葉は段々と尻すぼみになっていくが、その言葉は確かに次郎の耳に届いていた。


 確かに先日の一件で彼女を助けたのは確かだが、まさか彼女が自分にそんな事をしてくれるとは思っていなかったので、次郎は内心驚いていた。


 そんな彼の心中を察したのかは分からないが、智絵は顔を真っ赤にしながら言葉を続ける。


「べ、別に深い意味は無いわよ! ただのお礼なんだから!」


「お、おう……」


「ただ、これは、その……朝のおかずを詰めてきただけなんだから! 変な勘違いはしないでね!!」


「……はい」


 顔を赤らめながら必死に否定する智絵の様子に、思わず普段はしない様な生返事をしてしまう次郎。


(なんか、すげぇ気まずいんだけど……)


 何とも言えない空気の中、二人は互いに沈黙してしまう。


 しかし、このままではいけないと思ったのか、先に口を開いたのは智絵の方だった。


「あ、あのさ……せっかくだから、感想ぐらいは欲しいかなって……」


「そ、そうか……」


 ぎこちなく会話を続ける二人であったが、意を決した様に次郎は智絵が持っていた弁当を受け取った。


「じ、じゃあ折角だし頂くぞ」


 次郎がそう言うと、彼女はおずおずといった様子で頷いた。


 その様子を見て、彼は受け取った弁当箱を開ける事にした。

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