金髪不良の憂鬱な登校道中
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次郎と雪乃が峰岸組の、智絵の実家に赴いた翌日の事。日曜日が終わったのだから、次に来るのはもちろん月曜日である。
大型の連休が近付いてはきているが、それでも学校が始まる日というのは憂鬱なものである。学生であれば誰でも経験するであろう、あの感覚だ。
そんな気分を抱えたまま、次郎は欠伸を噛み殺しながら朝の通学路を歩いていた。現在の時刻としては朝の七時を過ぎた頃。普段の登校時間よりも幾分か早い時間帯であった。
そうした理由は先週の朝にあった雪乃による拉致事件が原因であった。次郎の登校するタイミングを見計らって自宅前に待ち伏せをし、強制的に車に乗せて連れ去ったのである。
その後は昼食を共に食べる約束を取り付ける為に遅延行為や遠方へ連れ去ろうとする脅迫まがいな行動を取るなど、朝からハードな出来事が連続した為、流石の次郎もあの出来事には疲弊していた。
その為、同じ轍は踏まない様に早めの登校を次郎はしていたのであった。
「先回りされている可能性もあったが……今日は何も無くて助かったな」
普段よりも早く家を出ているおかげか、周囲に怪しい人影は無かった。黒塗りの高級車も見当たらない。道中にもそれらしい人物の姿は見えなかったので、どうやら今回は何事も無く切り抜けられたようであった。
「とはいえ、油断はしない方が良いだろうな」
万が一の事を考えて警戒をしながら歩く様にしようと考える。そして、そう考えながら歩いている内に次郎は学校の校門へと辿り着く。
何にも邪魔をされなかった事で、スムーズにここまで辿り着く事が出来た。しかし、次郎は校門を通り抜けずに、その前で立ち止まった。
その理由は、校門の傍で見知った顔の人物が立っていたからだ。その人物とは―――
「……おはよ」
無愛想な感じに髪をいじりながらそう挨拶してきたのは、智絵だった。彼女は次郎を見つけるや否や、こうして挨拶をしてきたのだ。
「……あぁ、おはようさん」
次郎もまた、そんな彼女に対してぶっきらぼうに挨拶をする。そんな彼の頭の中で思い起こされるのは、昨日の記憶である。
学園に通う彼女とは違う一面を見せられた昨日。智絵とはクラスメイトではあるが、そこまで深い間柄ではない。
なので、昨日にあった事は次郎の中では彼女の印象が変わる出来事でもあった。普段では見られない意外性が垣間見られたからだろう。
だからこそ、次郎はこうして挨拶をしたものの、その後でどう会話をすればいいか切り出しにくくなっていた。そんな次郎の様子を見て、智絵の方から先に話を切り出す。
「その……山田、今日は早いんだね。もっと遅くに来ると思っていたんだけど」
「ん? まぁ、そうだな。偶々だよ。下手をすると、連れ去られる危険性があったからな……」
ぎこちない様子で話しかけてくる智絵に対して、次郎は遠い目をしながら、何とも言えない表情で答える。
「連れ去られる危険性って、何よ……」
「峰岸には分からんだろうが、そうした危険が俺の周辺にはあるんだよ」
「……ふーん、そうなんだ」
「何だよ、その目は……?」
何か言いたげな視線を送る智絵に対して、次郎は怪訝な顔を向ける。
「別になんでもないわよ。ただ……変な事に巻き込まれたりしていないかなって心配になっただけ」
「そうかよ……そりゃ、どうも」
素っ気ない態度を見せる次郎に対して、少しむっとした表情になる智絵だが、直ぐにその表情を消して普段の感じに戻る。
そうしてから、改めて彼女は本題に入った。
「昨日は、その……最後に変な事になって、悪かったわね」
「いや、それは別に構わない……っていうか、気にしてないからよ」
「本当? でも、親父が変な事を言ったばかりに変な空気になっちゃったから……」
「だから、全然気にしていないから、大丈夫だっての。謝られる方が余計に気にするから、この話はもう無しな」
「う、うん……」
これ以上、話を引っ張るのもどうかと思ったので、次郎はそう言って強引に終わらせようとする。すると、智絵の方もそれ以上は何も言わなくなった。
「それよりも、だ……何でお前がこんな所にいるんだ?」
「え、えっとね……その……」
話題を変える為に次郎が気になっていた事について質問するのだが、それに対して何故か歯切れの悪い答え方をする智絵。
そんな様子に首を傾げる次郎であったが、智絵は意を決してかの様にして、彼に向かって話し掛ける。
「あ、あのさ! 今日の昼休みなんだけど、さ……」
「あ? 昼休み?」
「そ、その……ちょっと、さ。ちょっと、だけ……付き合って、くれる……?」
「……別にいいけど」
智絵の質問に怪訝な表情を浮かべる次郎ではあったが、特に断る理由も無かったので、そのまま了承する事にした。
「……そっか、ありがと」
次郎が素直に頷いた事に安堵の笑みを浮かべる智絵。そんな彼女の反応を見た次郎は首を傾げながらも深く気にはしなかった。
「じゃあ、約束したからね。今日の昼休みに屋上で待ってるから」
「お、おう、分かった」
それだけ言うと、智絵はこの場から足早に立ち去っていった。次郎はそれを見届けながら、乱雑に自分の髪を掻いた。
(しかし、何の用なんだろうな……?)
校門の前で立ち尽くしながら、次郎はそんな疑問を抱いていた。
しかし、考えても仕方が無い事だと結論付けた彼は頭を切り替えて校舎へと向かっていく。
そして、自分のクラスがある教室へと向かっていった。
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