突撃、郊外のヤクザ屋敷
それから暫くして辿り着いた場所にあった建物は、立派な門構えをした和風の屋敷であった。
和風の豪邸とも言うべきか、屋敷の周りは高い塀に囲まれており、敷地の広さもかなりのものであろう事が窺える。
そして入口である門の前に立ってから改めて見上げてみると、その大きさがよく分かる。
まるで武家屋敷のような趣きを感じさせる佇まいであるが、それも納得できる程の威圧感を放っている様に思えた。
「……でかいな」
思わずといった様子で呟く次郎に対し、雪乃は同意を示すように頷いた。
二人が立っている門の前には『峰岸組』と書かれた表札が取り付けられており、その下にはインターホンが設置されていた。どうやらここが目的地らしい。
「ここが、そうなのか?」
「はい、そうですわ」
目の前の光景が信じられないといった様子の次郎に対し、雪乃は微笑みながら答えた。
「こんな立派な屋敷を持てるなんてな。ヤクザってやっぱり儲かるんだな」
感心した様に告げる次郎に対して、雪乃は首を横に振った。
「全ての極道組織が必ずしも金持ちではありませんわよ。今は暴対法によって昔ほど大きく稼げない所もあるみたいですし」
「そういうものなのか」
「ええ、そういうものですわ」
彼女はそう言うと小さく笑ってみせる。
「峰岸組の場合ですと、ここら一帯の地主である事が大きいですわね。組が直接運営するのでは無く、子会社を設立させて不動産や駐車場経営、そして飲食店の経営などを行う事で収益を得ているようですから」
「詳しいんだな」
「もちろん、調べましたから。相手の事を良く知りもせずに話し合いに臨むなんて、言語道断でしょう? ですから徹底的に調べ上げましたわ」
誇らしげに語る彼女の様子に、次郎は思わず苦笑を浮かべた。
(こういう所は流石というか何と言うか……)
普段はおっとりとしていて穏やかな雰囲気を纏っている彼女だが、こうした行動力の高さは彼女の長所だと言えた。
もっともそれは、同時に短所にもなりうるものであるのだが。そんな事を考えながらも彼は口を開く。
「というか、今更なんだが……本当にこの格好で大丈夫なのか? こんな豪邸に入るにしちゃ、ちょっと場違いじゃないか?」
次郎は自身が着ている服装を指差しながらそう言った。彼が身に纏っている服というのは、学園で使用している制服だった。
そして雪乃も制服姿だ。二人して制服に身を包み、ヤクザの住む屋敷の前に立っている姿は酷く目立つだろう。
「問題ありませんわ。私達がどんな人間であるかを示すには、とても分かりやすい恰好だと思いますもの」
「……そうか?」
「変に畏まった服装を選ぶよりも、こっちの方が自然ですし。それに……学生相手と相手が侮ってくれたのなら、付け入る隙が生まれますし」
そう言って笑みを浮かべる彼女に、次郎は小さく溜め息を吐いた。
「打算ありきの発想かよ……」
「あら、いけませんでしたか?」
不思議そうに首を傾げる彼女の様子を見て、再び溜息を一つ吐く。
「まぁ、いい。とりあえず、いくか?」
「ええ、参りましょう」
二人は頷き合うと、そのまま屋敷の門にへと近寄っていく。そして雪乃はインターホンの前に立つと、そのボタンを押した。
すると、門に取り付けられている二つの監視カメラが一斉に雪乃へと焦点を合わせたかと思うと、程なくしてスピーカーから声が聞こえてきた。
『はい』
「こんにちは、私は四条雪乃と申します」
『……』
「昨日にご連絡致しました通り、本日はお時間を頂きたくて伺わせて頂きました」
『……少し待て』
機械を通した音声が途切れると、しばらくして玄関の扉がゆっくりと開き始めた。
開いた隙間からはスーツ姿の男が姿を見せる。男は鋭い目つきをした三白眼でこちらを睨みつけてきた。
「どうも初めまして。あんたが四条家のご令嬢さんかい?」
「ええ、そうですわ」
彼女は微笑みを浮かべたまま男に答える。その態度を見た男は静かに頭を下げた。
「お初にお目にかかります。私はこの屋敷の管理を任されている銀二という者です。どうぞよろしくお願い致します」
丁寧な挨拶を受けた事で、自然と彼女も頭を下げて挨拶をする。
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
「それでは、親父の元へ案内いたしますのでこちらへどうぞ」
銀二の先導に従い、次郎達は敷地内へ足を踏み入れていく。しかし、銀二は数歩だけ進んだところで足を止めてしまった。
「……どうかなさいましたか?」
突然立ち止まった彼に訝しげな表情で訊ねる雪乃。そんな彼女に対して、銀二は次郎へ視線を向けながらこう告げる。
「失礼ですが……その彼は何者ですか? どういったご関係で?」
「ああ、申し訳ありません。紹介がまだでしたね。彼は私の護衛ですわ」
そう言うと雪乃は隣にいる次郎を紹介するように手で示す。それを受けて、次郎は静かに会釈をする。
「どうも」
「護衛……そうですか、分かりました」
納得がいったのか頷くと、改めて屋敷へ向かって歩き出す。その後ろを次郎と雪乃は付いて行った。
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