金髪お嬢様、予想外の言葉を告げる
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相良が公園を後にしたちょうどその頃。萬楽で次郎や邦彦に対して説明をしていた雪乃の携帯にメールが届いた知らせが入った。彼女はそれに気付くとすぐさま内容を確認していく。
「……なるほど」
その文面を確認した後、雪乃は小さく呟いた。どうやら彼女にとって吉報だったらしい。その証拠に彼女の顔には笑みが溢れていた。
「何かあったのか?」
雪乃の呟きを耳にしたからだろうか、次郎が不思議そうに彼女に問い掛ける。すると、雪乃は次郎に目を向けてから、静かに首を縦に振った。
「ええ。相良からですが、吉報が入りましたわ」
「ほう、それで内容は?」
「ふふ、知りたいですか?」
「ああ、もちろんだ」
「では、これをどうぞ。見た方が早いと思いますので」
そう言って雪乃が差し出した携帯電話を受け取った次郎が画面を見ると、彼はギョッとした顔で固まってしまった。
画面に表示されていた内容があまりにも衝撃的過ぎたからだ。しかしそれも無理は無いだろう。
何せ、そこには先程まで会っていた松永がボコボコに痛め付けられた姿が画像として表示されていたのだから。
それを見てしまえば、誰もが絶句するのは当然の事であろう。
だが、そんな次郎とは対照的に、雪乃はニコニコと笑顔を浮かべたままであった。
「流石は相良ですわ。仕事が早く、そして的確ですわね」
「いや、お前……これはいくら何でもやりすぎだろ……」
「あら、そうですか? 私としてはこれでも足りないくらいなのですけれど」
そう言いながら微笑む雪乃に対し、次郎は思わず頭を抱えてしまう。そんな彼女が浮かべる笑顔はとても美しく可愛らしいものであったが、それが逆に恐怖を駆り立ててくるのだ。
「あれだけ次郎さんや次郎さんの御爺様に迷惑を掛けたのですから、この程度の報いを受けるのは当然の事ですわ。寧ろ、私が手ずから制裁を加えたかったのですけれども、それをすればきっと私の立場が悪くなるでしょうから自重しましたのよ?」
「……そうか」
誇らしげに胸を張る彼女を見て、次郎は再び溜め息を吐いた。
確かに次郎としても今回の件に関しては思う所はあるのだが、だからと言ってここまでする事は無かったのではないかと思わずにはいられなかった。
そして雪乃は次郎の目をまじまじと見つめていた。その姿はまるで、飼い主に褒めて欲しい様な犬の様にも見えた。
そんな期待が込められた眼差しを受けるも、次郎はそれを流す。代わりに机に肘を付いて顎に手を当て、訝しむ視線を雪乃に向けながら彼は疑問を投げ掛けた。
「それで、これからどうするんだ? お前が言う釣り餌は用意出来たんだろ。なら、後は待つだけか?」
次郎の問いに対して、雪乃は首を左右に振った。
「いいえ、それだけではいけませんわ。相手の出方を待つだけでは時間が掛かり過ぎてしまいますもの」
「つまり、こちらから動くのか?」
「はい。既に手は打ってありますわ」
「……それは?」
「それは……秘密です♪」
彼女の言葉を聞いた瞬間、次郎の表情が曇る。それを見た彼女はクスクスと小さく笑みを零した。
「……あまり良い予感はしないんだが」
「問題ありませんわ。それに関しては、私にお任せくださいな」
複雑な表情を浮かべる次郎に対して、雪乃は自信満々に言い切った。
その表情を見た次郎は、それ以上何も言えなくなってしまった。
「分かった。そこまで言うなら、お前に任せる。そもそも俺に出来る事自体が少ないからな」
「ふふっ、ありがとうございます。それとあともう一つだけ、やっておかなくてはならない事がありますわ」
「やっておく事だと?」
「はい。そうですわ」
雪乃はそう言うと、次郎から視線を外して邦彦に視線を向ける。
「ねぇ、御爺様。確か、先程……峰岸組と連絡を取れると仰っていましたよね?」
「あ、あぁ、そうだな。確かに言ったが……」
「でしたら、是非ともお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん? 何だ、言ってみろ」
雪乃の言葉に邦彦は耳を傾ける。すると、彼女の口から驚きの言葉が飛び出してきた。
「峰岸組の方とお話がしたいので、連絡を取って頂けませんか?」
それを聞いた瞬間、邦彦の表情は凍り付いた。もちろん、それは次郎も同様であった。
二人して同じ様な表情を浮かべる姿を雪乃は見つつ、静かに笑みをこぼすのであった。
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