金髪不良、事情を説明する
それから暫くして、昼の営業を終えて店の片付けを終えてから、次郎達は店の中で話をし始める事にした。
因みに店内にいた客の中には、あの騒動の時に居合わせた客もいたが、特に騒ぎに対して言及する事も無く、食事を済ませて帰っていった。
言及しないというよりかは、関わりたくないと言った方が正しいのかもしれない。
下手に関わってしまうと、自分まで巻き込まれかねないからだ。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものである。
だが、そうしてくれた方が次郎にとっては都合が良いので、そうした配慮はありがたいまであった。
そして次郎は客席の一つに座り、正面にいる邦彦の顔を見つめる。彼は険しい顔を浮かべ腕を組みながら、じっと次郎の様子を窺っていた。
そんな様子に気圧されながらも、次郎は静かに口を開く。
「さて、どこから話したもんか……」
そう言いながら頭を掻く次郎。そんな彼の様子に邦彦は訝し気な表情を見せる。
「どうした? そんなに言いづらい事なのか?」
探る様に尋ねてくる邦彦の言葉に、次郎は黙って頷く事で答える。
それを見た邦彦は大きく溜息を吐くと、呆れた顔で尋ねてくる。
「全く、お前という奴は……まあいい、とにかく話してくれ」
「あぁ、分かった。だが、その前に―――」
そこまで言うと、次郎は視線を邦彦から切り、右に九十度ほど首を動かす。その視線の先には微笑ましい表情でこちらを見つめる雪乃の姿があった。
「……何でお前が残っているんだよ」
苦い表情を浮かべながら、次郎は彼女に向かって声を掛ける。すると彼女はにっこりと笑いながら、彼の疑問に答えた。
「あら、そんなの決まっていますわ。貴方と一緒にいる為ですわよ」
さも当然といった様子で答えられてしまい、次郎は思わず頭を抱えてしまう。そんな彼女の様子を見て、思わず大きな溜息が出てしまった。
「それに、今回の件につきましては、私も無関係ではありませんし」
「……どういう事だよ?」
彼女の言葉に引っかかりを覚え、尋ねる次郎。そんな質問に対して、雪乃は満面の笑みを浮かべてこう答えた。
「私自身は関わり合いが無くとも、私の護衛が彼らと関わってしまっていますもの。なので、無関係とはいきませんから」
そう言われて次郎は雪乃の護衛の一人であるゴメスの顔を思い出していた。
確かに言われてみれば、彼が今回の事件の一端に関わっている事は否定出来ない事実だ。
ゴメスは松永達の眼前に躍り出た上で、銃を乱射して追い払ったのだから、彼らには顔が割れてしまっている。
つまりは彼らの報復対象になりえるという事だった。なればこそ、次郎は雪乃の言葉を一蹴する事が出来なかったのだ。
「そうかよ……まあ、そういう事なら仕方ないな」
そう言うと次郎は渋々といった態度で、雪乃をこの場に残す事を認めた。
「……そういえば、お前。あの秘書はどうしたんだ? いつの間にかいなくなっていたが……」
ふと思い出した様に次郎は雪乃へそう告げる。次郎が松永達と出て行った際にはいたはずの、相良の姿がどこにも見えなかったのだ。
「確かにそうだな。あのお嬢さん、気が付いたら消えていたな」
どうやら邦彦もまた、相良の不在に気付いていたらしく、首を傾げていた。
消えた相良を不思議がる次郎と邦彦。そんな中、雪乃は一人くすくすと笑い声を上げていた。
その様子に気付いた次郎は怪訝な表情を浮かべる。
「おい、何笑ってるんだよ」
次郎が尋ねると、雪乃は笑みを引っ込めて真面目な表情を浮かべた。
「いえ、別に何でもありませんわ。それと相良でしたら……少し用事が出来ましたので、席を外していますわ」
「用事だと?」
「えぇ、そうですわ」
そう言って雪乃は微笑みを浮かべると、それ以上は何も言おうとはしなかった。
しかし、彼女の微笑みの裏に、何かがある事を次郎は何となく感じ取ってしまう。
だが、ここで追求しても彼女が素直に答えるとは思えなかった。もしくは、はぐらかされて終わるだけだろう。
「まあ、いい。とりあえず、話を進めるぞ」
次郎はそう言って話を戻す事にする。これ以上この件について話をしても時間の無駄にしかならないと判断したからだ。
「まずは、そうだな―――」
そして次郎はそう口火を切ってから、これまでの松永達との経緯について語り出したのだった。
「――という訳なんだ」
一通りの説明を終えてから、次郎は大きく息を吐いた。
これまでにあった出来事を全て話し終える頃には、時計の長針が約半周ほど回っていた。
そんな長い説明を終えた後で、最初に口を開いたのは邦彦であった。
「ふむ、なるほど……大体の話の流れは分かった」
腕を組みながら頷く邦彦。しかし、その表情は非常に難しいものであった。
「……これはまた、厄介な事になったな」
そして彼は眉間に皺を寄せたまま、唸る様な声でそう言った。
それはまさに、彼の心情をそのまま表した言葉でもあったのだろう。
しかし、それも当然の反応と言えるのかもしれない。何しろ、彼が思っていた以上に次郎の置かれている状況は悪いものだったのだから。
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