チンピラ達の目的
「てか、俺の事はもういいだろ。今、一番どうにかしないといけないのは……峰岸、お前の方じゃないか?」
次郎はそこで、智絵に対して真剣な顔で向き直った。
「さっきお前に絡んでいた連中、あいつらはまともな連中じゃないだろ。何者なんだ、あいつらは? どうして、あんな連中に絡まれているんだ?」
次郎がそう問い掛けると、智絵は俯いてしまい、黙り込んでしまった。
「おい、どうしたんだ。何か言えない理由でもあるのか?」
その様子に次郎は怪しく感じて、彼女に再度問い掛ける。しかし、それでも返答は無かった。
何か言えない事情があるのか、それとも何も知らないのだろうか。次郎がそう考えていると、思わぬところから声が返ってきた。
「あれは
その声はゴメスのものだった。
「山城会だと?」
次郎は視線をゴメスに向け、そう訊ねた。
「せや。関西を中心に勢力を伸ばしているヤクザ組織の一つや。その辺の界隈では有名やで。確か、最近はこっちの方にも勢力を伸ばそうと色々と動いているみたいやったな」
「……おい、何であいつらが山城会の構成員だって分かるんだ?」
次郎は不思議に思って、疑問を口にした。
「ん、ベリーイージーな話や。さっきボーイが倒した奴がおったやろ。あいつの胸に山城会のバッジが付いていたからや。それで分かったんや」
「バッジ?」
「あぁ、これぐらいのやな」
次郎が首を傾げると、ゴメスは親指と人差し指で小さな丸を作り、それを次郎に見せた。
「……そんなもん、あったか?」
「ちゃんとあったで。けど、付けてたのはボーイに殴られた男だけやったし、他の男達はちゃんと外しとったな。身分対策なんやろうけども、一人だけ外すの忘れとったらほんま意味無いで。アホちゃうか、と思うわ」
そう言いながらゴメスは呆れた表情を浮かべて、肩をすくめた。
「なるほどな。けど、良くそんな事に気が付けたな」
「そりゃワイはプロやからな。余裕よ余裕。せやから、ボーイがあの男を殴った時はほんまに肝を冷やしたわ。下手したら殺されてたかもしらんで。危険が危ないところやったわ」
「悪かったな。でも、あの状況じゃ仕方なかっただろうが。峰岸を助ける為には、ああするしか無かったんだよ」
「分かっとるって。けど、次からは気を付けてや。今回は運が良かっただけで、次は死ぬかもしれへんで。相手はヤクザ組織の構成員や。その気になれば殺しにも躊躇しないやつらも沢山いるはずやで。さっきもワイが暴れていなかったら、間違いなく殺されとったで」
ゴメスがそう言うと、次郎は先程の銃乱射騒ぎを思い出した。
「……あれはそういう事だったのか。けどよ、あれはやり過ぎじゃないか。いくら何でも、銃を乱射するのは……」
「乱射? ワイはあの時、実弾は一発も撃ってへんで」
「は?」
「あれ全部、音だけ鳴る空砲や。ガワだけほんまもんの、ただのおもちゃやで」
「お前、嘘だろ……」
「疑うんやったら、実際に見てみぃ。ほれ」
そう言ってゴメスは先程の騒ぎで使っていた拳銃を取り出すと、次郎に手渡した。
次郎は恐る恐るではあるが、それを受け取った。初めて手にする拳銃、そのずっしりとした重さに驚きながらも、次郎はグリップを握ってみる。
見た目としては何の変哲もないオートマチック式のハンドガンであり、特に変わった所は見られない。
「……結構、重いな。しかし、銃なんて触った事が無いから、妙に緊張するな。いや、それよりも、本当に空砲だったのかよ。全然、気付かなかったぞ」
次郎は感心しながらも、不満げな顔で言った。
「ほなら、一発撃ってみ。安全装置も外れとるし、引き金を引くだけでえぇ。遠慮はいらんで。どうせ、おもちゃやからな」
「……分かった。それじゃ、撃つぜ」
次郎は銃口を上に向けて構えると、そのまま銃の引き金を引いた。
すると、乾いた破裂音が響き渡るが、それだけであった。撃った時に生じる衝撃もなければ、反動すらも感じない。
「こんな見た目して、本当に空砲だったのかよ……。何か、あれだな。縁日で売っている拳銃とか、陸上競技のピストルとかと大差ないな」
「当たり前や。誰が好き好んで実弾なんて撃つかいな。管理も大変やし、撃った後始末も面倒やで。それにもし警察なんかに捕まったら言い訳がきかん。そんなリスクを負うわけないやんけ」
「確かに、それもそうだな。けど、何でわざわざあんな事をしたんだ。空砲だとあいつらにバレてたら、余計に厄介な事になるんじゃないのか?」
「それに関しては問題あらへん。別にバレてもバレなくても、どっちでも良かったんや。あそこで騒ぎを起こして、連中があの場に居づらくなる様にすればそれで十分や。あいつらは表立って動ける様な立場やない。その証拠に、直ぐに尻尾を巻いて逃げていったやないか」
ゴメスはそう言うと、朗らかに笑った。しかし、その言葉を聞いた次郎は呆れた表情を浮かべていた。
「あの行動全部が計算通りだってか。大した奴だよ、全く」
「いやいや、全然計算通りなんかやないで。偶々上手くいっただけの話や」
「そうかよ」
そして次郎は持っていた拳銃を、ゴメスに向けて投げ返した。
「うおっと、危ないやないかい!」
それを慌てつつも、ゴメスは受け取った。
「で、さっきの山城会だかの話だな。何でそいつらが峰岸に絡んでいたんだ?」
「いや、そこまではワイも知らへんで。どういう組織なのかぐらいの、大まかな情報しか知らんのや。こういった事は洞島はんの方が詳しいと思うねんけど……今はおらんしな」
ゴメスは困った様子で、ツルツルの頭を掻く。
「けど、何となくは想像つくで。多分、人質として利用しようとしたんやろな」
「人質?」
「ほら、ガールは峰岸組トップの一人娘なんやろ? ここら辺のシマを狙っている山城会からすれば、格好の獲物や。娘を盾にして揺すれば、峰岸組も手出し出来ひんようになるやろうな」
「そうか……って、おい。何でお前、峰岸の実家が峰岸組だって知っているんだ」
「何でって、そりゃあお嬢様に情報を渡されとったから、その辺は把握済みやで」
「四条が? 一体、何の為にだよ」
「そら勿論……」
そこまで口にして、ゴメスは急に黙ってしまった。そして何故か大量の冷や汗を流し始めた。
「勿論……何なんだ?」
次郎は不審に思いながらも、続きを促す。しかし、ゴメスはその先の言葉を口にする事を躊躇っていた。
やがて覚悟を決めたのか、大きく深呼吸をした後にこう言った。
「その……何というか、まぁ、色々とあるみたいですわ。ほんと、この国には色々とあるもんですね。いやー、驚きましたわ」
明らかに嘘と分かる口調で、ゴメスは答えた。
しかし、その態度を見た次郎はこれ以上追及しても無駄だろうと判断する。
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