金髪不良、関係性を暴露される
「ねぇ、ところでさ……さっきの話で一つ気になったんだけど」
「ん?」
「お嬢様って、誰の事なの?」
次郎が不思議そうな表情を浮かべる中、智絵が尋ねた。
「ああ、それはだな……」
次郎は言い淀み、どう答えるべきか迷う。ここで雪乃の名前を出せば、彼女が自分に好意を抱いている事を知られる事になる。そうすれば、面倒な事態になるのは目に見えていた。
しかし、このまま黙っていても話は先に進まず、いつかは雪乃の事を話さなければならない。
どうするべきかを次郎は考え、そして悩む。雪乃の名前を出すか否か。
(……いや、やっぱりここは誤魔化しておくべきだな)
悩んだ末、次郎は雪乃の事は伏せておく事に決めた。だが―――
「あ、それは雪乃お嬢様のことやで、ガール。このボーイのガールフレンドでもあるで」
しかし、次郎の思惑とは裏腹に、ゴメスがあっさりと答えてしまった。しかも、余計な情報を付け加えた上で。
それを聞いた智絵は驚きを隠せない様子で、次郎の顔を見る。
見られた次郎は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「雪乃……って、もしかして四条雪乃!? あの生徒会長で四条グループのご令嬢の!?」
「せやで。ガールも名前くらいは聞いた事あるやろ。お嬢様の事を」
驚く智絵に、ゴメスが答えた。その二人のやり取りを見ていた次郎は、ゴメスに向けて心の中で舌打ちをする。
「あるに決まってるじゃん! 同じクラスで学園の有名人だし、知らない方がおかしいわよ。そんな真面目な子と山田みたいな不良が付き合ってるなんて信じられないわ……」
「おい、それは違―――」
「せやから、嘘やないで。本当やで、ガール」
次郎の言葉を遮りつつ、ゴメスはそう言いながら腕を組み、何度も首肯する。その態度に、次郎は苛立ちを覚えた。
「いや、だから違―――」
「今朝なんかもな、ボーイの家まで迎えに行って、そのまま車で一緒に登校しとったやさかいな。ほんで、ワイも仕事やったから、一緒におったんやで。なぁ、ボーイ?」
次郎が否定しようとするが、またもやゴメスが言葉を被せて喋り出す。
しかも、余計な事を付け加えたせいで、真実味が更に増してしまっていた。その事に対して、次郎は思わず歯軋りする。
「そ、そうなの? 山田……」
智絵は恐る恐る次郎に尋ねる。次郎は、その問いに肯定も否定もせず、ただ無言でゴメスを睨んだ。
そしてどう説明したものかと悩みつつ、頭を掻きながら智絵を横目で見る。
「いや、それには事情が―――」
「いやぁ、ほんまに羨ましい限りやで。ワイもボーイみたいに、お嬢様の様な可愛らしい彼女が欲しいわ。なあ、ボーイ?」
「てめぇ! ふざけんな! 人の話ぐらい聞きやがれ!!」
あまりにも話を聞こうとしないゴメスに耐えかねてか、次郎は思わず声を荒げる。
そしてその額には青筋が浮かんでおり、次郎の怒りの度合いを表していた。
しかし、その怒りもゴメスには通じず、彼は次郎の肩に手を回して笑っていた。
「なーに、怒っとるねん、ボーイ。そんな怖い顔をしたら、せっかくのイケメンが台無しやで。スマイル、スマイルや。ボーイは笑顔とお嬢様の隣が似合う男やさかいな」
「うるさいんだよ、クソ野郎がッ!! いい加減にしねえと、マジでぶっ飛ばすぞ!」
次郎はそう言って、自分の肩に回っているゴメスの腕を振り払った。そして彼の胸倉を掴み、思い切り怒鳴りつける。
その勢いに、智絵は驚いて目を丸くしていた。その様子に、さすがのゴメスも呆気に取られて黙ってしまう。
「いいか、このドミンゴだかブランコだかアリアスだか知らねえがよ」
「ゴメスね」
「うっせえ! いいから、俺が説明している最中に口を挟むな。邪魔するんじゃねぇぞ」
次郎はそう言うと、掴んでいたゴメスの服を離す。その顔には苛立ちが残っており、まだ腹の虫が治まらないといった感じであった。
だが、それでも一応は納得したのか、ゴメスは口を閉ざして静かになる。
「それで……結局、どういうことなの? あんた達だけじゃなくて、私にも分かる様に説明してくれると嬉しいのだけれど?」
智絵はそう言いつつ、ジト目で次郎の事を見ていた。どうでもいいから、早く説明しろという具合が視線から読み取れた。
彼女の視線には若干ではあるが怒りの色が混じっており、これ以上は機嫌を損ねる訳にはいかない。次郎はそう考えて、仕方なく雪乃との一件について語り始める。
「まず最初に言わせて貰うが……別に俺と四条は付き合ってなんかいない。変に縁がこじれにこじれて、何か良く分からない事になっているだけだ」
次郎は溜息交じりに、心底疲れ切った様な口調で言った。
「でも、さっき……あのゴメスさんが一緒に登校しただとか、手料理を食べただの言ってたけど、あれは何なの?」
「それは確かに事実だが、一緒に登校したのは拉致まがいに連行されたからだし、手料理も無理矢理に脅されて約束させられた上で食べさせられたんだ。断じて、俺の意思でやった事じゃない」
次郎はそう言うと、深い溜め息を吐いた。その表情にはうんざりした感情が色濃く表れており、本当に嫌々だったのだというのが智絵には分かった。
それを見て、智絵は少しだけ同情する。
(こいつ、苦労しているのね)
その証拠に、次郎は物凄く疲れ切っている。
「ふぅん。そういう事なのね。……ちょっと、安心した」
次郎の説明を受けた智絵は納得してそう返した。最後の部分に関しては小声でぼそりと呟いたので、次郎には聞こえていなかった。
「けど、意外だわ。四条雪乃ってそういう人だったのね。あたしはあんまり話した事が無いから良く知らないんだけど、もっとこう……」
智絵はそう言って、言葉を濁らせた。その先を言うべきか悩んでいるようであった。
「はっきり言ってくれ。気になるだろうが」
「あぁ、ごめん。何ていうか、高嶺の花っていうイメージがあったから、付き合うにしても自分から積極的に動くタイプではないと思っていたのよね。だから、あんたが言った様な強引なイメージが全く湧かないのよね」
次郎の言葉に、智絵は苦笑いを浮かべながら答えた。
「俺も関わる前はそんなイメージだったよ。けど、関わってみたらそんな事は無かったぞ。あいつ、自分のやりたい事を強引に進めるし、我が儘だし、折れる事無く諦めが悪いし、人の話を聞かないし、自分の都合の良い解釈をする奴だし、他人を巻き込む様な行動を取るし、他人の迷惑を考えないで行動する。もう滅茶苦茶だよ」
次郎は雪乃の印象を一気に捲し立てた。その言葉からは雪乃に対する嫌悪感が滲み出ていた。
「そ、そうなの。何と言うか、大変そうね」
智絵は気の毒に思いながらも、そう返すしかなかった。
「ああ、大変なんだよ。あいつに振り回されて、もう散々だよ。……と、まぁ。そういう訳だ。あいつと俺は付き合ってなんかいない。ガールフレンドなんてのはあの馬鹿の戯言だよ。だから、信じなくてもいいぞ」
次郎はそこまで話すと、大きく嘆息をした。
その様子を見ていて、次郎が嘘を言っているようには思えなかった。智絵にはそれが理解出来た。
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