金髪お嬢様、追い詰める
「な……何だよ……何なんだよ、これ……」
田頭は目の前で起きる状況を呑み込みかねて、ただ狼慄く事しか出来ないでいた。
先程までは自分達は優位に立てていたと田頭は思っていたのだが、今となっては完全に立場が逆転している。
寧ろ劣勢に立たされているのは自分の方だと理解せざるを得なかったからだ。
(嘘だろ……。どうしてこうなった?)
何故この様な状況になったのか、彼には全く分からなかった。
確かに次郎がここまでやって来た事は、彼にとっては予想外ではあったが、それでも何とかなると踏んでいた。
実際のところ、数の力を頼りにどうにか出来る状況まで運んではいた。あのままであれば、どう考えても自分達は勝てていたのだった。
では、どこから歯車が狂い出したのか。その答えは明白である。雪乃の存在、その一点である。
彼女がこの場に現れた―――いや、連れて来られた事で、全てがひっくり返ってしまった。
(だって……だって、こうなるなんて分かるはずが無いじゃないか!!)
田頭は心の中でそう叫んだ。しかし、そんな事をしても現状が変わる事は無い。
彼がいくら喚き散らしたところで、何も変わらないのである。
「オラァッ!」
「た、助け―――ぎゃああっ!?」
洞島が振るう武器によってまた一人、田頭の仲間が倒される。ボロ雑巾の様に転がって、または倒されていく光景に、彼の戦意は既に折れかけていた。
「お、俺達はただ、あいつらに復讐しようとしただけなのに……っ」
田頭は思わずそう口にする。それは本当ならば八田野高校にいる不良全員の総意でもあった。
八田野高校は周辺の高校と比べると、圧倒的に弱い部類に入る。それは学力の問題でもあるのだが、戦力という点においても他には敵わない。
同じ不良高校である八坂高校とは比べるまでも無く、草薙学園に至っては次郎たった一人にすら敵わない始末である。
だからこそ、彼らは―――田頭は考えた。自分達よりも強くて憎い連中を利用して、格上の奴らを互いに潰し合わせ様と。
その結果、上手く行きかけた。あの時は本当に上手く行くと思っていた。しかし、それが完全に失敗に終わった。
全ては雪乃がここに来た事が切っ掛けで、全ての計画が台無しになってしまったのだから。
もっと言えば、次郎に手を出してしまった事が、この悲劇の原因でもあった。
彼の周囲では銃声がこれでもかといわんばかりに鳴り響いている。悲鳴だった絶える事も無く、断続的に響き渡っていた。
完全に鉄火場と化してしまった自分達のアジトの中心にて、田頭は心が折れて膝をついてしまう。もう戦う気力など残っていなかった。
「ひぃっ!?」
その時、何かが風を切る音が聞こえたかと思うと、田頭のすぐ近くに銃弾が着弾する。その事に驚いて、彼は情けない悲鳴を上げた。
「あらあら、随分と情けない声を出すのですね。仮にもあなたはリーダーなのでしょう? もっと堂々としたら如何ですの?」
その声に反応する様にして、田頭が恐る恐る顔を上げる。すると目の前には雪乃が佇んでいた。
彼女は既に拳銃を構えており、その銃口は田頭にしっかりと向けられている。その事実に田頭は震え上がった。
「ま、待てよ! 待ってくれって!! 話せば分かる!!」
必死に命乞いをする田頭を尻目にしながら、雪乃は冷めた目で見つめている。その表情には呆れの感情があった。
「何を仰っているのですか? 山田君を襲った時点で、貴方達とは話し合いの余地など無いでしょうに」
「いや、でも―――」
「問答無用ですわ」
言い訳をしようとする田頭の言葉を遮り、雪乃は引き金を引いた。弾丸が放たれ、それが田頭の右足にへと着弾をした。
「がああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
足を撃たれた田頭は、激痛の余りその場でのたうち回った。撃たれた箇所を手で押さえて痛みに耐えようとするも、その程度では耐えられない程の痛みに襲われる。
「死ぬ……死んじゃう……誰か、助けてくれぇ……」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにさせながら、助けを求める田頭。その姿はあまりにも惨めで哀れであった。
「安心しなさい。死にはしません。この拳銃も、そして彼らが持っている拳銃も装填されているのは全て、ゴムスタン弾。殺傷能力は一切ありませんのでご心配なく」
「け、けどよぉ……っ」
雪乃の言葉に、痛みに悶えながらも反論をしようと試みるが、その前に再び発砲されてしまう。今度は左足に命中をして、またもや激しい苦痛に襲われた。
「あがあぁっ!? あ、足があぁっ!」
「ですが、激しい痛みは覚悟していて下さいね。何せゴム製とは言えども、当たれば痛いのは変わりないのですから」
「そ、そんな……あがあぁぁ!?」
泣き言を口にする田頭であったが、それを無視して三発目のゴムスタン弾が撃ち込まれる。
挙げられる悲鳴を無視して、更に数発を雪乃は連射をする。それは田頭の身体には一切当てず、周辺に向けての射撃だった。
その光景を雪乃は冷ややかな視線で眺めていた。そこには慈悲といったものは無く、ただ淡々と作業をこなしているだけの様に見える。
そうして雪乃が田頭をいたぶっていると、周りからは銃声や悲鳴といったものは無くなっていた。
他の八田野高校の男達は、全員気絶していたのだ。中には意識がある者もいたが、その者達には白人の男が容赦なくゴムスタン弾を撃ち込んでいく。もしくは黒人の男が足蹴にしていた。
「さて……これで残るのは貴方だけみたいですわね」
雪乃は周りを見渡す。そしてそれから田頭にへと目を向け直す。
彼女は拳銃を携えつつ、彼にへと至近距離まで近づく。その距離は息がかかる程に近い。
その距離に恐怖したのか、田頭は目を大きく見開いていた。
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