援軍到着


「こ、今度は何だよ、一体……?」


 突然の事態の連続に、困惑をする田頭がそう口にする。他の者達も同じ気持ちだったのか、全員が呆気に取られていた。


 やがて逃げた男達の悲鳴は聞こえてこなくなる。その事に誰も言葉を発しない、発していいものかと躊躇い、廃工場内が静寂に包まれた。


 そんな中で、雪乃が口を開く。


「……どうやら、終わったみたいですわね」


 雪乃がそう口にするのと合わせて、男達が逃げていった方向から足音が聞こえてくる。それも複数人のものだ。


 その音は徐々に大きくなり、こちらに向かって来ているのだと分かった。


 そして次郎達がいる場所に、足音を鳴らしていた人物が現れる。


 現れたのは総勢で六人。しかし、足音を実際に鳴らしていたのはその内の三人である。


 残りの三人は先程に逃げた八田野高校の男達であり、彼らは皆総じて意識を失っており、担がれて運ばれて来た様であった。


 その彼らを運んで来たのは屈強な男達。一人はブロンドヘアーの白人で、外観はテリー〇ンに良く似た男。もう一人はスキンヘッドの黒人。こちらはアブドーラ・〇・ブッチャーに良く似ている。


 彼ら二人は漆黒のサングラスを掛け、野戦服に身を包む。軍人とも思えるような鍛え上げられた肉体を持っており、その風貌からは威圧感が漂っていた。


 そして残るもう一人は―――


「お嬢。言われた通り、逃げ出そうとした奴らは全員とっ捕まえたぞ」


 そう言って担いでいた八田野高校の男を放り投げ、地面に転がす。他の男達も同様に地面へと落とした。


 その男は他の男達が野戦服に身を包む中、一人だけまるで場違いの様に陽気なアロハシャツとサングラスを着用していた。


「あら、お疲れ様ですわ。洞島。それに他の皆さんも」


 雪乃が男達に労いの言葉を掛ける。その表情はとても穏やかで、優しい笑顔であった。


「あいつは……」


 次郎は洞島と呼ばれた男に見覚えがあった。以前にどこかの公園で出会った謎の男。それが彼であった。


 そして次郎が洞島に気付くのと同時に、彼もまた次郎の事に気が付いた。


「よう、坊主。また会ったな」


 次郎に気が付くなり、洞島はニヤッとした笑みを浮かべる。


「お前、あの時の……。何でここにいるんだよ」


「そりゃあ、仕事に決まってんだろ」


 次郎の問い掛けに、洞島はさも当たり前のように答える。


「仕事だって?」


「おうよ。ここにいるのも仕事。お前さんに忠告をしにいったのも仕事。で、あれが俺の雇い主って訳」


 次郎の疑問に答えながら、洞島は雪乃を指差した。その行動に次郎が雪乃に視線を向けると、彼女はニッコリと微笑んで見せる。


「山田君。彼らは私が雇っている護衛の方々です」


「護衛……護衛? これが?」


 雪乃の説明に、次郎は思わずそう口にしていた。どう考えても彼らの事をそんな感じには捉える事が出来なかった。


 護衛とは、主に要人の身辺警護を行う者を指す言葉である。その護衛のプロとも言える存在が目の前にいる男達なのだが、とてもそうには見えなかった。


 一人は陽気なアロハシャツの男であるし、残る二人はテ〇ーマン似とアブドーラ〇ザ〇ブッチャー似であったから。


「失礼な事を言うなよ、坊主。これでも俺は戦闘のプロだぜ?」


 そうした次郎の反応に、洞島が不機嫌そうな顔になる。


「いや、プロはプロでも、後ろの二人はどう見てもプロレスラーにしか見えないんだが?」


 次郎がそう指摘すると、洞島はバツが悪そうに頭を掻き、他の二人に目を向けた。


「まぁ、あいつらはなぁ……うん。そう見えても仕方ないな」


 二人の外見は誰がどう見ても護衛と言うよりかは、ボディーガードよりもプロレスの悪役レスラーと言った方がしっくりくる。そんな見た目をしていた。


 そればかりは洞島も否定は出来なかった。


「洞島。職務中の無駄話は関心しませんわ」


 雪乃が少し咎める様な口調で言い放つ。その声に、次郎は一瞬だが雪乃の雰囲気が変わった様に思えた。


「そんな暇があるなら、早く仕事を終わらせなさい」


「へいへ~い」


 雪乃の注意に、洞島はやる気の無い返事を返す。


「……さて。名も知らない少年諸君達。申し訳無いが、これも仕事なんでね。さっさと諦めておじさん達にやられてくれ。異論は認めん」


 そう言うと洞島の態度が一変して、その体から殺気が漏れ出す。


 その雰囲気の変化に、次郎は息を呑んだ。それは他の面々も同様で、その空気に当てられて冷や汗を流している。


「おい、お前ら。俺は正面をやる。残りは任せた」


「イエッサー」


「合点承知の助」


 洞島の問い掛けに、ブロンドヘアーの白人とスキンヘッドの黒人が応じた。


 そして彼らは各々武器を取り出し、それを構える。彼らが取り出したのはどちらも拳銃だった。しかも、黒人の方は二丁の拳銃での両手持ち。その銃口が狙う先は―――八田野高校の男達。


「じゃ、始めますかねぇ!」


 洞島が挙げたその言葉と共に、機先を制すと言わんばかりに黒人の男が両手の銃を乱射する。その発砲音に、次郎は驚きを露わにした。


 雪乃が使っていたテーザー銃とは違い、今度は弾丸の発射音が聞こえて来たのだ。


「ぐあああっ!?」


 銃弾が撃ち込まれたのは一人の男。彼はその身に無数の弾丸を喰らい、悲鳴を上げながらその場に倒れ伏す。


 その光景に、他の者達は呆然とするしかなかった。


「は、ははは。冗談じゃない! こんなのあり得るのかよっ!!?」


 一人が叫ぶ。しかし、その叫びは虚しく響き渡るだけであった。


「悲しいけど、これ。現実なのよね。悪いけれども、さ……っ!」


 その声に呼応する様にして、洞島がそう呟いて八田野高校の男に襲い掛かる。その動きは俊敏で、常人では捉えられない程の速さだった。


 八田野高校の一人が慌てて反撃しようとするが、それよりも先に洞島が懐に入り込む。そしていつの間にか手にしていた得物を横薙ぎに振るった。


「ぐふぅっ!!」


 八田野高校の生徒は横腹にその一撃を貰い、そのまま吹き飛ばされた。そして地面に転がると、口から血を吐き出して気絶する。


「どうよ、これ。中々にカッコいいだろう?」


 得物を手に持ちながら、洞島は得意げに笑う。彼が持つのは銀色に塗装をされた長柄の棒。それを見せびらかすかの様に振り回して見せる。その姿は非常に様になっていた。


「さぁ、どうした? かかって来いよ。来ないのだったら……こっちが一方的に攻めるだけだぜ?」


 挑発的な笑みを浮かべながら、洞島は更に前へと出る。長柄の棒を振るって八田野高校の面々を吹き飛ばしていく。その様はまさに無双という言葉が相応しい程に圧巻であった。

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