普通になりたかった。
北 条猿(Kita Jyouen)
普通になりたかった。
「普通になりたい。」
どれだけ私はこう考えたことでしょう。
学校も毎日まともに通えない。両親は離婚し、二人とも新しいパートナーを見つけ、私のことは全て二の次。人前でうまく笑えない。運動も苦手。勉強なんて尚更。
私がなにか失敗すると、母に必ずこう言われました。
「普通こんなこと誰でもできるよね?」
それが、母が私を叱る時の口癖でした。
その度に私は考えます。普通とは何だろう。普通にすら成ることが出来ない私は何なのだろう、と。
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ある日の朝、私は母に叱られました。
原因は「今日偏頭痛が酷いから学校を休みたい。」という何気ない(と信じたいです。)私の言葉でした。
「普通偏頭痛ぐらいで学校を休んだりするものではありません。早く準備して学校に行きなさい。」
母は私を一瞥もすることなく言いました。
私は黙って頷きました。母に反抗したところで、”普通ではない“私の話など聞いてくれるはずが無い。そう思い始めていたからです。
この頃から私は、人に自分の気持ちを伝えることができない人間になってしまいました。
“普通ではない”私のことなど誰も聞いてくれない。そう自己暗示を無意識にかけていたからです。
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こんな私にもたった一人、友人がいました。
彼女だけが、私を“普通”という呪縛から開放してくれました。
「私は雪のことを頭ごなしに否定しない!それが普通なんて言わない!だから…私には本音をぶつけてよ!私を頼ってよっ…!」
これは、踏切の音が無機質に鳴り響く線路で、立ちすくんでいた私を引っ張り出してくれた直後、彼女がかけてくれた言葉でした。
この言葉に私はどれほど救われたことでしょう。私のことを理解しようとしてくれる人がいる。その事実に、私は涙してしまいました。
それから公園で二人並んで食べたアイスは、死ぬまで忘れないでしょう。死んでも、忘れたくない。
そんな彼女は、もういません。
後から知ったことなのですが、彼女はクラスメートから陰湿ないじめを受けていました。私にはそんなこと、一言も言わずに。
彼女は誰にも相談していなかったそうで、亡くなってから初めていじめの事実が発覚したようです。
彼女も、ずっと一人ぼっちだったのです。
もし私が気づいてあげることができていたら、今この瞬間も彼女と一緒にアイスを食べていたかもしれないのに。
彼女が助けてくれた命を、彼女の分まで精一杯生きよう。私はそんなことが言えるほど強くはありませんでした。
“普通は友達が死んだからって自分も死ぬなんておかしい。”
大多数の人は、こう言うでしょう。
でも、私には関係ありません。だってそうでしょう?私は、
“普通では無いのですから。”
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踏切のそばの草むらに落ちていたスマホには
「普通になりたかった。」
というタイトルの文章が、書き残されていた。
fin.
※この物語はフィクションです。
普通になりたかった。 北 条猿(Kita Jyouen) @nighttwice
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