わたくしが40歳だなんて、何を証拠に言ってるんですの!?

ちびまるフォイ

人は見た目で判断してはいけない。

「お客様、この先のパーティ会場は30歳未満の方のみとなっております」


「なんですって? この西園寺家の令嬢が参加できないと?」


「年齢制限がありますので……」


「年齢制限!? 私が30代に見えて!?」


「いえ! そんなには……」


「でしょう! さあそこをおどきなさい!」


「失礼ですが40代に見えるので、通すわけには……!」


「むきーー!! あなた! お父様が許さないわよーー!」


黒服に止められてしまい、パーティ会場には入れなかった。

なにより悔しいのは、年齢を重ねたことで自分の女性としての価値がないような扱いをされたということ。


この口惜しさは何よりもまずお父様に報告しなくては。


「ということがありましたのよ、お父様! これはもう差別ですわ!!」


「私の愛娘になんと非礼なことを……!!」


「いいんですのお父様。わたくしが許せないのはパーティに参加できないことより、

 年齢というただ一点だけで、わたくしの価値を決めつけられたことですわ」


「なにが年齢だ。人生100年時代とかいいながら、チャンスは人生の序盤だけじゃないか。

 ぬぅぅ許さん! 年齢などという悪しき風潮をぶっ壊してやる!」


「お父様! ありがとうですわ!!」


西園寺財閥の力によって、年齢という概念が消えたのはそれから数日後のこと。

身分証明から年齢の部分が消され、誕生日はお祝いするが年齢は数えなくなった。


わたくしは差別反対教の教祖となって駆けずり回るようになった。


「国民のみなさん! 年齢などという古い価値観はもうやめましょう!

 若くてもできる優れた人、高齢でも優れた人はいくらでもいます!

 わたくしたちは年齢から自由になったのです!」


「「 西園寺! 西園寺!! 」」


「ありがとうですわ! ありがとうですわーー!」


年齢が消えた直後はまだ年齢差別が残っていたが、

差別反対教の活動で年齢の重要度が低まってくるとそれもなくなってきた。


10歳でも会社の社長としてぶいぶいいわしている人もいるし、

高齢でも若い子のパーティに参加している人もいる。


年齢という鎖がなくなったことで、誰もがありのままで過ごせるようになった。

そんなある日のこと。


「西園寺先生!」


「なにかしら信者No99」


「実は私の話なんですが、先日海外にいったときに税関で止められまして」


「まあ」


「私が年齢を偽っているということでした。

 やはりまだ海外には年齢差別意識が残っているようで……」


「それはいけませんわ。わたくしの活動はこの国だけの話ではなくってよ。

 全世界……いいえ、全宇宙に対して、人を見た目で判断する風潮を撤廃しなくてはならないわ」


「西園寺先生……!」


「わたくし、海外にとびますわ! 私が留守の間、この国を頼みますわ。

 人を勝手に決めつけるような価値基準をどんどんなくしていくのよ」


「はい! 西園寺先生が留守でも頑張ります!」


「その意気ですってよ。さあこれを」


「このネックレスは……?」


「差別撤廃教のシンボルのネックレスですわ。

 信者にはこれを高額で買わせて、教団の資金源にするといいですわ」


「ありがとうございます!」


そうして海外に飛ぶと、各地で公演を繰り返してじょじょに教えを広めていった。


イチから畑を作るように大変なことではあったが、

見た目で何もかも判断する悪しき風潮が消えるのであれば頑張れる。


教えは少しづつ広まると、やがて大きな波になり、国境を超えて全世界に広まった。


「もう年齢でひけめを感じることもないのですわ!

 学生の合コンにおばさんが来ても誰も文句は言わないのですわ!!」


「 SAIONJI! SAIONJI!」


「ありがとう! ありがとうですわーー!」


差別撤廃教の海外遠征もひとくぎりついたので、やっとこさ帰国の段取りとなった。


「ふふふ。私の信者がどれだけ差別をなくしてくれたのか楽しみですわ」


きっと生きやすい世界になっていると信じて帰国するときだった。

乗っていた西園寺家のプライベートジェットが大きく左右に揺れる。


「き、機体の制御ができません!」


「ちょっとなんとかしなさいよ!」


「頭を低くしてください!」


航空機は火を吹きながら、山の中腹へと不時着した。

機体はバラバラになってあたり一面を火の海にしていた。


「ううう……早く……早く救助を……こんなに血が……」


「しっかりしてください! もうすぐ西園寺病院のヘリが来ます!」


ヘリが到着するころには意識が消えかかるほどになっていた。

傷を見て医者は決断する。


「このままでは病院までもちません。このヘリで手術をします」


「うう……お願いしますわ……今にも死んでしまいそう……」


「急ぎ手術の準備を! その前によろしいでしょうか?」


「な……なんですの……こんなときに……」


医者はひどく真面目な顔で質問する。



「あなたの性別はなんですか?」



「お、女に決まってるでしょう……!?

 それを聞いてどうするの!」


「手術前に必要なんです!」



答えるたびに傷口から出血が止まらない。


「もうひとつよろしいですか」


「今度はなんですの……」



「お嬢様の血液型は?」

「お嬢様の星座は?」

「お嬢様のご年齢は?」

「お嬢様のアレルギーは?」

「お嬢様の今の気分は?」



「いいから手術しなさい!! こっちは重症ですのよ!!」


その言葉に医者は真っ向から反論した。



「人を見た目で判断するなんて、できないでしょうが!!」



医者の首からは「差別撤廃教」の素敵な金色のネックレスがさんぜんと輝いていた。

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