第46話 運命の岐路 4


「いいのか? 戻る保証はどこにもないぞ」


 ……あれ?


 布団の上に押し倒されたまま、私は改めて念を押す兼継殿を 不思議な気持ちで見上げた。


 何でこうなった。


 あの「お願い」をした後、しばらく黙っていた兼継殿は、特に何か言うでもなく私を抱き上げて、隣の部屋に向かった。


 そして今に至る。


 兼継殿の真剣な顔を見ていると、じわじわと不安になってきた。

 ……もしかして私は、大変な間違いを犯したんじゃないだろうか。


 無意識に脇差わきざしを探した手首が、兼継殿にとらわれておさえ込まれる。

 咄嗟とっさに身を捩ったけれど、身体が全然動かない。私は茫然ぼうぜんと兼継殿を見上げた。


 この身体、雪村まえの身体より明らかに身体能力が落ちている、っていうか、普通の女の人程度の腕力しか無い!


 雪村どうしよう!?

 

 問いかけても、雪村は抑え込まれてもけられない事に、私以上にショックを受けているし、何よりもそうしているのが兼継殿だって事に、とんでもないショックを受けている。

 兼継殿が何か言っているけど、今はそれどころじゃない。


 雪村、ショックなのは私も一緒だ。とりあえず私の話を聞け!

 

 どうする? このまま続ける? それともやめてもらう?

 ちょっと見立てを誤ったみたいだ。このままだと男には戻れるかも知れないけど18禁ルート突入だぞ。

 これは雪村の身体だから雪村が決めて! 急げ!!


 ――やめます――


 よしきた!

 ちいさくつぶやく内面の声に、私は即座そくざに行動を開始した。


 私は雪村の「やめる」と言う意思を尊重そんちょうする。



 ***************                ***************


 意識を戻すと、兼継殿がお説教をしていた。


「お前は解っていないのだろうがな、男にあのような事を言えばこのように手痛ていたい目にあう。私ならそうしないと思ったか?」


 思っていましたとも!

 私は兼継殿を見上げて、さっそく中止のお願いを申し出ることにした。


「兼継殿、申し訳ありません、私は」

今更いまさら引いて貰えると思うな。あおったのはお前だろう」


 中止のお願いがあっさりとさえぎられる。


 怖いくらいに真剣な瞳。

 身体を容赦なく押さえつけられ、ささやく声が耳朶じだをくすぐる。

 あ、あれ? 兼継ってこんなにイケボだったっけ? ……などと呑気な事を考えている場合じゃない。


 こんな兼継殿は見たことない。

 まさか撤退不可ふかなの!? ぎゃぁぁああああ!



 ***************                ***************


「すまん。脅かし過ぎた」


 不意に身体にかかる重みが消え、私は茫然と兼継殿を見上げた。

 真剣で怖い兼継殿じゃない、いつもの兼継殿に戻っていて、私を布団の上に座らせて頭を撫でてくれる。


 ……し、信じてた、信じてたよ兼継殿ぉ!


 何だかいつの間にか泣いていたみたいで、兼継殿の掌が私のれた頬を包むように触れる。

 びっくりしたのと怖かったのとで、もう何が何やらわからない。


「こんな事をいても、戻れる保証などないのだ。落ち着いて戻る方法を探そう。だがこれだけは忘れるな。お前は今までとは違う。決して自分の力を過信するな。軽率な言動は控えろ。そして、何かあれば私を頼れ」


 ……だから弱っている時に そういうのは反則だってば。


 兼継殿の声が優しくて、気がゆるんだ途端とたんにまた涙が流れて止まらなくなって。

 私はこくんとうなずいて、また泣き出した。


 兼継殿が何か言っていたけど、私は大混乱と大恐慌の後で心底ほっとしていて。

 そのせいで涙が止まらなくて。

 こくこく頷きながらも、それからの事はまったく記憶に残っていない。



 その時の私は、本当に いっぱいいっぱいになっていて。

 だから、まだその時は、これがゲームの『特殊イベント』だって知らなかったし、これ以上に大変な事態が起きている事にも、まだ気付いていなかった。


 それからの私は、ゲームとはまったく違う『この世界』を生きていく事になるけれど。

 それはまた、別の話。



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カオス戦国~18禁乙女ゲームの世界に転生しました・ただし攻略される武将として~ 白瀬 @kayuri

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