第68話 近代日本のDV浮気男と婚約破棄王子の共通点
本当につい先ほど、建国パーティの直前だった。
石垣から落ちて頭を打ち目が覚めた時、サフィニアの中で
青井笑美は日本の女子大生だった。
母と姉の三人家族、父は生きていたが母と離婚したのでいないのも同然だ。
その父親が最低なモラハラ浮気男だった。
共働きのくせに、笑美や姉が生まれても、自分だけいつまでも独身気分で飲み歩き遊びまわり、子供のための貯金すら使い込む、家事育児を手伝わないことを母が文句言っても
「俺より稼いで来たら家事してやる」
などと言う始末。
バカ言うんじゃねえよ。
誰かが家事育児しなきゃ家だって回らないだろうが!
相手が時短やパートでハンディ背負っていて収入に差があるだけのことを、どや顔で偉そうにしている恥ずかしさに気づかないバカさ加減。
どうせお前など俺が相手してやらなきゃ結婚できないだろう、と、なぜか相手を見下し上から目線。
そして挙句の果ての浮気。
母はカウンセリングにかかり、そこでモラハラ夫からの呪縛を解き離婚。
父有責で離婚となるも、分割でしか払えない慰謝料も、そして養育費も途中で踏み倒す。
母娘三人、経済的には底辺だけど頑張った。
笑美が高校の頃、ネット小説や漫画の「悪役令嬢」もので婚約破棄を宣言する王子らが結局「ざまぁ」される話が気持ちよくて何作も読んだ。
要するにはまったのだ。
なぜそんなにはまるのだろう、と、笑美自身も考えた。
そして「ざまぁ」される最低王子どもが、自分たち母娘を苦境に落とした父親と同じ人間性を持っているからだと気づいたのだった。
まず、ただの浮気を愛だ恋だといって正当化する厚顔無恥。
この手の物語で王子どもが使う『真実の愛』という言葉は読者の嘲笑の対象でしかない。
そして婚約破棄後「悪役令嬢」が去られた後で、彼女が王子のためにしてきた献身の数々を失って転落へと進み始める。
それは妃としての仕事や王子のフォローなど多岐にわたり、高スペックの悪役令嬢は周囲に評価されていて、色気や愛嬌しか取り柄のない浮気相手の女ではとてもその穴を埋めることができない。
彼女の貢献について過小評価してきた王子が、その過ちに気づいた時には時すでに遅し。
これは二十四時間休みのない育児や家事、あるいは、しょせん女子供の仕事と低賃金のままとどめ置かれている感情労働(医療・保育・小売業界エトセトラ)を日本の男性が見下している様と似ている。
妻の家庭内での貢献や、パートなど企業内でのサポート的労働、あるいは看護、介護、保育など昔女性が引き受けていた類の労働などを、なぜか自分たちの仕事より下位に見立てる「企業戦士」は山のようにいる。
父はそれに乗じたもっとも卑劣な輩だったわけだ。
いくら母が言っても父が家事育児を手伝わなかったのは、自分が楽をしたい、めんどくさいって気持ちもあったと同時に、その仕事を片手間でできる簡単な仕事と見下していたからだろうね。
さらに転落を始めた王子どもは厚かましくも自分が捨てた悪役令嬢に復縁を迫ることがある。
なんで、自分がひどい仕打ちをしたくせに、相手がまだ自分を愛していてくれているだろうから復縁は可能なんて思いこむことができるのかね?
とにかく不快なうぬぼれが見苦しい。
そういえば、養育費も払わないくせに、たまにいけしゃあしゃあと私たち母娘に連絡を取ってくることあったな。
連絡をしてやったのだからうれしいだろう、ありがたがれよ、と、言わんばかりの口調で。
誰が思うか、ボケ!
そんな風に心理分析を高校生ながら笑美はやっていた。
母をモラハラ浮気夫の呪縛から解放したカウンセラーもメンタルヘルスの専門家だったし、そういう勉強したいと笑美は思うようになった。
その夢に対して母及び高卒で就職した姉が物心供に支えてくれて、笑美は大学に進学することができた。
ああ、それなのに……。
交通事故で命を落としちゃうなんてね……。
気が付いたら、日本とは全く違う社会背景をもった世界のブラウシュテルン公爵家の次女サフィニアになっていたのだ。
そしてその日の夕刻から始まったパーティでの王太子の「婚約破棄宣言」。
黙っていられなかったので、つい口を出してしまった。
中身もないくせにプライドだけは山のように高い王太子の、自分勝手な宣言の結末が物語のようにうまく「ざまぁ」を見せられて終わってくれるのか?
サフィニアも気が気ではなかった。
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