第60話 フェリ様、激高する

 精霊王の眷属に加わったロゼ。


 この世界の出来事にひそかに干渉する機会も多くなるがゆえ、もう一度彼女が死んだあと世界で起こった出来事をおさらいすることとなった。


 事件が解決した後、精霊王の御所にやってきた彼女は、彼女を助けてくれたゼフィーロが王太子になったこと、その一年後アイリスと結婚したことまでは関心を持ち他の精霊の報告に耳を傾けていた。


 しかし、当時ただの死霊であった彼女は、記憶や感情エネルギーの減少とともに世界に対する関心を失ってしまい、何を聞いても生返事しかしなくなり、やがて精霊たちも彼女にはわざわざ下界の話をすることもなくなった。


 そしてかれこれ五十年以上たったこの世界が、今どんな状況なのか、精霊ロゼにはさっぱりわからないのであった。


「まずは君の故国のシュウィツアから行こうか」


 サタージュが説明し始めた。


 事件の解決に一役買って出てくれたアイリスとゼフィーロが結婚したところまでは知っていた。


 彼らの間には三男一女が生まれた。


 第一王子アーデルベルト、現在は彼が王位についている。王妃との間に王子と王女一人づつ

 第二王子エルンストは残念ながら若くして事故で死亡。

 第一王女ヴェレーヌはホーエンブルク公爵家に嫁ぐ。公爵である夫との間に息子が一人、娘が二人。

 第三王子オステルンは臣籍降下。罪を問われ断絶となったノルドベルクの分家筋にあたる娘と結婚しノルドベルク公爵家を再興する。夫人との間に息子が二人。


 ゼフィーロ、アイリス、そして彼らに仕えた侍女ゾフィ・エルダーもすでに鬼籍に入っていた。


「以上が、シュウィツアの状況。次は西隣りのフェーブルの話に行こうか」


 かつての友たちがもうこの世の存在ではないことについて、ロゼラインが感慨に浸る間もなく、サタージュは続けた。


 しかしその矢先、 

「おいこら、サタージュ!」

 フェリ様がものすごい剣幕で入ってサタージュを怒鳴りつけた。


「お前のせいで山がめちゃくちゃにされそうなんだが、いったいどういう了見だ!」

「はっ?」

「お前の信者だよ! そいつらが我らの庭先に入ってきて貴白岩を取っていきやがる。多勢で押しかけて山に入り込むものだから、他の冒険者が散策できなくなってしまった。それに貴白岩はここの霊気にあてられて形成される希少な石だ。それを全てかっさらうように持っていって、山の景観がひどく損なわれているし、隊によっては山肌を削ってその岩を探そうとするところもあるのだぞ!」

「な、な……、わたしは何のことやら……」


 フェリ様の興奮した調子に押されてサタージュはうろたえた。


「それについては調べてきたよ、説明しようか」


 続けてネイレスも入ってきてそう言った。


「君がロゼの教育で手が離せないからって僕が調査に行かされたんだよ。役目を逆にしてくれれば手間が省けるのに……」


 ネイレスが愚痴った。


「お前ではふざけたことばかり言って勉強にならんから、サタージュの方にロゼを任せただけじゃろうが! はよ言え!」


 フェリ様がじれて怒鳴った。


 かしこまりました、と、まじめに向き直ってネイレスが説明した話は以下のとおりである。


 大陸のほぼ中央に位置するエルシアン王国にて、サタージュを唯一神とする宗教が力を持つようになり、王家からも手厚い保護を受けている。その宗教が王都に神殿を建てるために精霊王の御所もあるフェノーレス山地にしかない貴白岩を採掘しているのである、と。


「神殿となると相当量の岩が必要じゃな。やつら山の岩を根こそぎ奪っていく気じゃないだろうな!」


 フェリ様が再び怒りをあらわにした。


「信じてくれるのはいいが、わたしはそんなこと頼んでないぞ」


 サタージュはあきれ途方に暮れた。


「環境破壊の問題ってこの世界でも起こるのね」


 彼らの話を聞いてロゼも感想を漏らした。


「とりあえず、君が出張って『やめろ』というしかないんじゃないかな?」


 ネイレスがサタージュに提言した。


 

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