第45話 王宮裁判 ~判決~

 陪審役の貴族たちの見解をまとめた意見書が裁判長に提出され、しばしの休廷の後、

「それでは判決を言い渡します」


 裁判長の声が響いた。


「被告サルビア・クーデン。そなたは無許可で毒物を王宮内に持ち込むという禁を犯した。これは王族を害する行為とみなされ『反逆罪』が適応される。よって極刑を言い渡す」


「待ってよ、なんで今さら……、王太子様、助けて!」


 サルビアは懇願したが、王太子は目を合わそうともせず無言を貫いた。


「被告ロベリア・ノルドベルク。そなたはロゼライン・ノルドベルクの飲み物に毒物を混入させ死に至らしめた。故意過失に関わらず王族への加害行為は死罪相当の『反逆罪』であり、準王族に対しても同様である。よって極刑を言い渡す」


「あなた、黙ってないで何か言ってよ。由緒あるノルドベルクの正妻がこんな目にあっているのに、どうして黙っているの?」


 ロベリアは夫である公爵に助けを求めたが、彼もまた目をそらしたまま無言を貫いていた。


「だいたい、あのロゼラインが悪いのよ。もっと殿下の気分が良くなる形で仕事をこなせば私だって……」


 この期に及んでなんちゅう無茶ぶり!


 王太子殿下の機嫌を損ねないような依怙贔屓処分など繰り返していたら、いずれ人心は離れてしまい治世は安定しなくなるわ。


「続いてエルフリード・ノルドベルク。そなたはサルビアが毒を持ち込み、ロベリア・ノルドベルクの手にそれが渡る際の中継をされた。反逆罪はそれに値する行為を何らかの形で知り及んでいながら見て見ぬふりをした場合、同罪となる。よって極刑を言い渡すところ、被告は成年年齢に達していなかったことを鑑みて、死一等を免じ爵位はく奪の上、平民に降下。王都からの追放を申し渡す」


 これは逆に死よりもきついかもしれない、と、ロゼラインは思った。


 裁判長の言葉は続く。


「さらにノルドベルク公爵家ですが、夫人と嫡男の悪事を防がなかったことを鑑み、爵位はく奪の上公爵家は取り潰しとなります」


「ちょっと待ってくれ! 我が家の不始末は認めるが、なぜ罪を犯していない私まで……?」

 公爵が慌てた。


「確かに貴殿は何もされておりませんが、夫人と嫡男が罪を犯すのを座して見ていた。家門の中心的人物が二人も反逆罪に問われて、家そのものがおとがめなしというわけにはまいりません」


「だからと言って極端すぎるだろう。私に平民になれとでもいいたいのか!」


「そういうことになりますな」


 ノルドベルク公爵としても、公爵位からの降格くらいは覚悟していたが、爵位はく奪までは想定していなかったようだ。


 奇声に近い上ずった声で公爵は裁判長に訴えた。

「だったら、離婚だ! この女とは離婚する。息子の方も勘当するしそれでどうにかなるのではないか? ああ!」


「あなた!」

「父上!」


 ロゼラインが母や弟に虐められても見て見ぬふりをしていた父が、この期に及んで自分だけ助かろうと彼らを切り捨てようとしている。


「離婚も勘当もご自由になされればよろしいですが、犯行が行われた当初は家族関係が継続されていたのですから、それで判決が左右されることはありません。家族はもちろん親戚縁者に至るまで死罪とされる連座制があった昔と違い、処刑は免れているのですからそれに感謝することです。同じく被告サルビアの実家クーデン家も取り潰しとなりました。納めていた領地は二分して近隣の伯爵がそれぞれ管理。でも、領地を一番よく知っているのは元クーデン男爵家ですので、新たに領主となった伯爵家の慈悲にすがり家令や侍女として雇い入れられたそうです。あなたも侯爵として培った経験を活かせば面倒を見て下さる家門はあるかと思いますよ」


 裁判長は元公爵となる中年男性にこんこんと説いた。


 納得のいかない顔をしている元公爵を無視し裁判長は閉廷を宣言しようとした、しかしその時、

「お待ちください! 三名の被告に対する判決に異議はございませんが、彼らと同じく『反逆罪』相当の行為をなされた王太子殿下がこのままなんの処分もないという事に臣下一同納得できません!」


 陪審役の席に座るのを辞退し、傍聴席で裁判を見ていたホーエンブルク公爵が立ち上がり主張した。


「始まったわ、むしろこれからが本番かもしれないわね」


 ロゼラインがつぶやいた。


 まだまだ嵐はおさまらなかった。


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