第33話 アイリスとゾフィ(前編)
「恐ろしい目にあったのですね……」
サルビアに暴力を振るわれた騒ぎを聞いて心配したアイリスが黒髪の「ミカ」を自分の執務室に呼び寄せていた。彼女は一応ウスタライフェン家の口利きで雇われたという事になっているので、アイリスが様子を確かめるために「ミカ」を読んでも不自然ではない。
「ええ、でもサタ坊が言った通り身体は不死身で痛くもなんともなかったから平気よ、いえ、ですわよ、ちょっとびっくりした程度ですの」
ロゼラインが安心させるために説明した。
「シュールな修羅場だったわよね。アホ王太子は黒髪のミカがかつて自分が裏切って捨てたロゼラインだとは気づかず口説きまくって、それを略奪愛のサルビアが『泥棒猫!』って叫んで……」
「でもクロが大声出してくれたおかげで、サルビアもパリスもかなり恥ずかしい立場に立たされて、ざまあって気分かな」
「へへん! それにしてもクセ悪く他人の男を奪うような女を人間はどうして『泥棒猫』っていうのかしら? 猫に対する侮辱よ!」
「アハハ……」
クロの最後のセリフにはロゼラインも苦笑いした。
確かに猫に対しては失礼なのかもしれない。
そうして笑い合っている途中、クロがピッと耳を立てた。
「誰か、この部屋に近づいてくるわ。この足音は王太子ね、いつもよりドスドスってずいぶんいきり立っているような感じ。何を怒っているのかしら?」
クロは首を傾げた。
「もしかしたら、殿下に近しい近衛隊の方々を懲罰房に入れたからかしら?」
アイリスがつぶやいた。
「「「!!!」」」
アイリス以外の面々の顔が引きつった。
「アイリス……、そこのところもうちょっと詳しく……」
ロゼラインがおずおずと尋ねる。
「泥酔されていたらしくわたくしが管理を任されている庭園で暴れていたのでそのまま懲罰房に入っていただきました。たしかロゼライン様も同じ処理をなされてましたよね」
「そいつらって学習しないバカ?」
クロが率直に感想を漏らした。
「あの時も王太子殿下がねじ込んできたんですよね。ロゼライン様もアイリス様も決まり通り粛々と処分を下されただけなのにそういう理屈が通じる御仁ではないですから、王太子殿下は……」
ゾフィがため息をついた、そのあと、さらに何かに気づいて、
「ロゼライン様が殿下と鉢合わせになるのはまずくないですか?」
確かに、と、他の面々も思ったが、王太子は部屋に近づいてきており、今扉から出るとやっぱり鉢合わせになる。
「ロゼライン、その
クロが指示した通りやってみると、ロゼラインの魂はホムンクルスから抜け身体は手のひらサイズの人形に戻った。
それをクロがくわえてゾフィに渡しゾフィはそれをポケットにしまった。
その瞬間パリス王太子が荒々しく部屋に入ってきた。
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