第4話 弔いのあとに
上空から観察しているロゼラインの魂の存在に気付く生者はいない。
棺が埋められ弔いが終わるとそれぞれが散り散りにそれぞれの場所に歩いて行く。
両親と弟は墓から離れた場所まで歩き、自分たち家族だけになると、
「やれやれ、悲しみに暮れる母の役も大変だわ」
先ほどまで泣きわめいていたくせに、母はけろりとした顔で言った。
「まあ、そういうな。今回のことではさすがに王室も負い目を感じているのか、我が家門に対して過大な優遇措置を提案してくれていてな」
母をなだめるように父のノルドベルク公爵が語る。
「正直言ってこれ以上王太子殿下との仲がこじれてしまう前でよかったよ」
と、言ったのは弟のエルフリード。
「そうね、王妃という線はなくなったけど、エルフリードのことはこれまで以上に眼をかけてくれそうだし、あんな気の利かない愚図にそもそも王妃なんて大役務まるわけがないのだから、それを考えるといい時期に死んでくれたものだわ」
そこまで言う!
もし自分が死んだら、少しは悲しんでくれる?
少しは今までの言動を後悔してくれる?
そんな淡い期待はするだけ愚かだった。生きている時に相手に鬼畜な言動をする者は、相手が死んでも鬼畜な言動をやめないものなのね、と、ロゼラインはつくづく思った。
元婚約者のパリス王太子は、墓のあった場所を振り返ることなく霊場を後にした。
霊場の外に待たせた馬車の傍らにはダークヘアのヨハネス・クライレーベンがいて、馬車の中にはサルビア・クーデンが座っていた。
霊場の前までサルビアも同行していたが、表向きロゼラインは自死とされており、その原因と目される女が弔いの現場に行けば何を言われるかわからない状況だったので、現地まで来たものの馬車の中で待つという選択をしたのだった。
「ロゼライン様がまさかあんなことになるなんて……」
両手でほほを覆いながらしおらしくサルビアが言った。
「君が気を病むことではない。人情のわからない融通の利かない女がプライドを傷つけられたのに耐えられなかっただけだ」
パリスが慰めた。
「でも…」
「本当にサルビアは優しいな。まあ、元婚約者だった女の死には僕も思うところはあるが、そんなことで僕たちの未来を陰らせるわけにはいかない、ヨハネスもそう思うだろう」
いきなり話をふられたヨハネスが一瞬ちゅうちょしたが、すかさず答えた。
「殿下のおっしゃる通りですよ。サルビア様、あなたの役目は殿下を照らす光となることです。こんなことでその笑顔を曇らせる必要などどこにもありません!」
そんなこと……、こんなこと……。
私の死は彼らにとってそう表現されることなのか……。
正確にいうと「自死」ではないけど、いずれにせよ、彼らにとってロゼラインの死は、弔いの席で一時殊勝な態度をとればそれで仕舞いの「些細なこと」に過ぎないというわけだ。
対照的に本当にずっと泣きじゃくっている第二王子の婚約者のアイリスの姿が胸にしみた。
未来の皇太子妃としてすでに任される業務も少なからずあったロゼラインの部屋を訪れ、書類整理などよく手伝ってくれた娘だった。
彼女の傍らでゼフィーロ王子もうなだれたまま墓地を後にした。
そのほかにも本気で死を悼んでくれる者。
いかにも義理でお悔やみに来ましたよという態度だった者。
今になって周囲を取り巻く人間の本音が分かったような気がした。
そして、それはロゼラインが薄々感じていたそれぞれの人の「本音」と、それほどずれはないものだった。
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