第3話 もう一つの記憶
これは、いったい……?
さっきまで見ていたロゼラインの記憶とは別のところからやってきた映像。
直立した細長い建物の群。
鉄の塊の様々な形態の乗り物が信じられないほどの速さで走っている世界。
ロゼラインとは違う黒髪の女性。
名を「北山美華」と言った。
ロゼラインは即座にその女性もまた「自分」なのだと悟った。
北山美華として生きた過去。
それは心の温かさとをおおよそ無縁の家庭に生まれたことから始まっていた。
息を吐くように子を貶める言葉を履き散らす母親。家事を手伝えばダメ出し、テストの成績でも何でもできない個所を注目してダメ出し。
最初の第一歩の家庭での人的資源に恵まれなかったつまずきは、その後に人生に暗い影を落としたまま、北山美華は生きてきた。
ロゼラインはそれを見て自虐的にクスっと笑った。
次元すら異なっているであろう世界。
まったく違う社会的背景の中で、まったく違う社会的ステイタスや財力の家に生まれていながら、周囲にいた人間の質は何一つ変わっていない。
まったく同じだ。
冷淡な縁者たちの中で、それでも「努力」して相手の意に沿うような自分になりさえすれば、その気持ちにいつかは答えてくれると「錯覚」してきた。自身を捻じ曲げてする「努力」はやがて抱えきれぬ心の澱みとなり、抱えきれなくなって爆発すれば「癇癪もち」と蔑まれ、努力をしても自分はダメな存在なのだとうつむけば、それも「陰気だ」「かわいげがない」と疎まれる。
そんな無意味な「努力」を選択をしてきた自分のバカさ加減を笑いながらも、どうしてそんな人間たちに囲まれて愛されることのない人生を何度も送らねばならなかったのか?
自分が一体何をしたというのか!
運命を与えた神を恨む気持ちでいた瞬間、ロゼラインの意識は自身の弔いの現場へと移動していた。
現場はまさにロゼラインの亡骸を収めた棺に蓋をして埋葬しようとしているところだった。
自分自身の身体を上から見つめるなんて初めての経験である。
緩やかに波打った長いプラチナブロンド、明るい空色の瞳は永遠に閉じられその輝きを見ることはできないが、整った顔立ちと死んでなおうっすらと薔薇色のほほが生きている時の麗人の面影を現わしている。
わたしってこんなに美人だったの!
ロゼラインは実感した。死んだ後で今さらである。
いつも母に「不器量」と蔑まれていたので、自分を「絶世の不美人」と思い込んでいたロゼラインは、その理不尽さをしみじみとかみしめた。
一段高いところから見ろしているので、人の頭頂部がまず目につく。
髪の色とおおよその背の高さで集まっている人が誰だかわかる。
ストロベリーブロンドをアップにまとめた女が派手に泣きわめいていた。
その横にロゼラインと同じくプラチナブロンドの男、寄る年波のせいだろう、頭頂部が少し薄い。
さらにその横にダークブロンドの若い男。
ロゼラインの両親と弟である。
アッシュブロンドの若い男はパリス王太子である。チェリーレッドの髪の女は今日は同行していないようだ。
同じくアッシュブロンドの髪の若い男がもう一人いる、第二王子のゼフィーロである。彼は自身の婚約者のアイリス・ウスタライフェンと連れ立って歩いていた。マロンカラーの髪に青紫色の瞳が印象的な愛くるしい少女である。
ロゼラインは集う人々の感情表現もつぶさに観察しようとしていた。
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