第9話 全ては繰り返す

「これでも駄目なのか……?」


 男の全力を込めた一撃でも拓夢を打ち負かすことは出来なかった。


「それはこっちも同じなんだけどな」

「……それでも負けられない。俺は絶対に魔王を倒し、世界を平和にするんだ……そう約束したんだ」

「約束?」


 男は恨みにも似た目つきで拓夢を睨む。その奥には覚悟や決意、何より正義の心が燃えていた。


「神様と、そして今まで出会って来た人々と約束したんだ! 絶対に魔王を倒して平和を取り戻して見せると……!!」

「神様か。そうか」


 拓夢の脳内に忌まわしい神の顔が浮かび上がる。そしてそれを消すかのように首を振った後、再び男に目を向けた。


「一応聞いておくけど……あの神、世界を救えば何か願いを叶えてくれるとか言ってなかったか」

「……言っていた。世界を救う代わりに何でも願いを叶えてくれるとな。だがそれがどうした!」

「あー……多分それ嘘だぞ」


 拓夢は男にそう言う。しかし、男は聞く耳を持たなかった。


「そんなはずは無い。あの神様がそのようなことをするはずが無いだろう」

「いやいやそれがするんだよ。……俺がそうだったからな」

「黙れ! 貴様の言う事など誰が信じるか!!」


 男はアイテムボックスから剣を取り出し、両手に剣を握り再び拓夢へと肉薄した。


「善意で忠告してるんだけどな……」

「うるさい! 俺は魔王の言葉にはもう騙されないぞ!」


 男は二刀流で攻撃を繰り出していく。これは彼自身が授かったギフトであり、拓夢には無いものだった。そのため少しずつではあるが男の方が押し始めている。


「ぐっ……俺には無い能力か。これは少し不味いな」

「さっきまでの威勢はどうした!」

「させない!!」


 拓夢が押されつつあることに我慢が出来なかった理沙は、男の後ろに回った後背中からばっさり行った。とは言え勇者である彼はその程度の攻撃で死ぬことは無かった。


「何故人間である君たちがこんなことを……まさか、君たちは魔王に洗脳されているのか……?」

「洗脳なんてされていないわ。私たちは私たちの意思で拓夢と共に居るの」

「そ、そうよ。少し変なところはあるけど、タクムは私たちの事を大事にしてくれるの!」

「……何故こんな者に。いや、きっとその言葉も洗脳されて言わされているんだろう! 俺が助け出して見せる!」


 男は斬られた背中を回復魔法で即座に治し、理沙に向かって跳び込んだ。


「あぐっ」

「悪い、少しだけ眠っていてくれ」


 男は剣の柄で理沙のみぞおちを殴り、気絶させた。


「理沙!」

「ウラミ、待て!」


 男に向かって飛び掛かろうとするウラミを拓夢は制止した。だが間に合わなかった。ウラミは理沙と同じようにみぞおちを突かれ、気絶させられてしまった。


「こんな少女を洗脳して何をしていたのかはしらないが、もうさせない」

「洗脳はしてないんだが。それに別に変なこともしてないさ。ちょっと夜の運動会をしていたくらいで」

「な、何だと……!? なおさら許さん!」


 男はさらに怒りを込めて剣を振るい始めた。


「洗脳して夜伽をさせるなど、あってはならないことだ! おのれ魔王!」

「勘違いするな。彼女たちの意思だ」

「貴様が何と言おうと、洗脳を解いて彼女たちから聞き出せば全て済む話だ!」


 二本の剣による攻撃はどんどん速度を増していき、徐々に拓夢の傷が増えて行く。男は間違いなく今まで拓夢が戦ってきた中で一番の強敵だった。


「うぐっ……こうなったら!」


 拓夢は男の攻撃を巧みに避けながら徐々に理沙へと近づいて行く。そして、彼女に出来る限り負担がかからないように持ち上げた。 


「き、貴様っ何のつもりだ!」

「流石に少女を斬ることは出来ないだろう。さあ、武器を捨てるんだ」


 仲間ですら必要であれば肉盾とする。この男やはり外道である。


「ぐっ……」


 理沙を人質に取られた男は武器を捨て、その場に跪いた。


「俺はどうなっても良い……でも彼女たちは!」

「よしよし」


 拓夢は男が捨てた武器を遠くへ蹴飛ばす。そして、だらりと力なく四肢を垂らしている理沙の体を時折担ぎ直しながら少しずつウラミの方へと近づいて行く。そして理沙と同じように持ち上げた。


「そのまま動くなよ」


 拓夢は男に近づいて行く。そして男の首を飛ばすためにこん棒を振り上げた時だった。


「ぁ……?」


 拓夢の腹から一本の剣が突き出たのだ。


「あぐぁっ……がはっ」


 血しぶきと共に大量の魔力が霧散していく。


「やはり来て正解だったか」

「お前は……悪魔竜王……?」


 拓夢に剣を突き刺したのは、以前道を違えた悪魔竜王だった。


「勇者が拓夢を倒しに行くと言うから心配になって来てみればこれだ。それにしても、相変わらず外道なのだな」

「がふっ……お前、新勇者と仲良くなってたのか……。というか、今までお前の魔力は感じなかったぞ……一体どうやって……」

「魔力疎外のマジックアイテムだ。お前が滅ぼした魔都にもあったものだが、憶えて無いのか?」

「これから滅ぼすところをそこまで確認はしないし、憶えてもいないな……げほっ」


 普段であればすぐに回復魔法で回復させている拓夢だが、悪魔竜王によって魔力を大量に霧散させられてしまった今、満足に回復させることが出来なくなっていた。だんだんと薄くなっていく視界と意識の中、拓夢は最後の言葉を呟く。


「……ファイナルインパクト」


 それは、自爆魔法だった。


「……は?」

「はははっせめてアンタらは道連れだ……」


 ファイナルインパクトは体内の生命力と魔力を数十倍にして破裂させる最後の一撃だ。当然使えば死ぬ。


「おのれ魔王……!!」

「やっぱり来なければ良かったかもしれなうぐぁああっぁ!!」


 至近距離で爆発に飲み込まれた悪魔竜王は消滅。また担いでいたウラミと理沙も当然消滅した。唯一残されたのは勇者としての高い能力で生き残った男のみ。男は勝利と共に、最後の最後に圧倒的な虚無感を与えられたのだった。


「勇者よ」

「神様……?」


 虚無感によってしばらく放心状態だった勇者の前に神が姿を現した。拓夢との約束を破ったあの忌まわしき神だ。


「これで、世界は平和になるのですね……」

「ええ、貴方のおかげです」

「でも、失ったものも大きい」

「それでもこれからこの世界は……いやもういいか。うん、ここまでありがとう。もう用は済んだから後は勝手にしたまえ」

「……?」


 突然の神の豹変に男は対応出来無かった。


「な、何の冗談です? 世界を救えば妹の病気を治してくれると……」

「ああ、確かにそう言ったな。だがあれは嘘だ」

「嘘……?」


 男は目の前で起こっていることに理解が追いつかないようだ。今まで神の言葉を信じ、愛する妹を病気から救うために頑張って来たのだ。だがここまで来てそれが嘘だと突きつけられた。当然理解できるはずも無いだろう。


「そんな、約束じゃないですか……妹の病気を治してくれると言ったじゃないですか!!」

「言ったけど、あくまで言っただけだ。治せるのと治すのは違うと思わないかね?」

「そんな……裏切ったのか。許さない……絶対に許さないぞ……!!」

「お前が許さなかろうがどうだろうが知ったことでは無い。それに裏切るも何も別に貴様を信用などしていない。わかったらさっさと失せたまえ」

「そっちがその気ならそうしてやる! 覚えておけ!!」


 男は神にそう言い放ち、去って行った。


「ふぅ、せっかく全部終わったと思ったのにまたこれだ。次の勇者候補を探しておくとするか……ふむ、何としてでも殺したい相手がいる……か。良い感じに扱いやすそうだな」


 こうして勇者と魔王は何度も生まれては滅びを繰り返し、世界に混沌を招き続けている。


神に裏切られたので蛮族プレイをすることにしました 完

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神に裏切られたので蛮族プレイをすることにしました 遠野紫 @mizu_yokan

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