都会サバイバル

後見 ナイ

第1話

 現代都会に置いて求められる食べ物は二つある。一つ目は若い世代が好んで食べるいわゆる映えてさえいれば味なんてどうだっていいもの。二つ目は安く、リーズナブルで手軽。安価でお財布に優しい食べ物だ。そして最後に、この殺伐とした都会を生き抜くために必要な食だ。

 私はその二者択一を超越せし究極の飯で生き抜く都会の戦士である。戦士の朝は早い。今日は昼前に目が覚めた。寒くてこれ以上寝てられないからともいえる。冷たい空気。街中に規則正しく並ぶ銀杏並木はすっかり黄色に染まり、俺の服も黄ばんできてすっかり秋の訪れ、いや冬の到来を予感した。

 起きたら死んだような空気を眺めながら早速収穫と狩りの準備を行う。私は誇り高き戦士であるから自販機の下を漁ったり、高級店の並ぶビルの路地裏のゴミ箱を漁ったりなんてしない。正々堂々と転売をする。儲けれるのにしないなんて生活に余裕があるからいってられるのだ。それに転売品を買うような奴らなど俺以上の馬鹿だ。同情の余地などない。まぁ、その馬鹿のお陰で生きていけるわけだが。

 そんなこんな言っている内に、すっかり錆びたとたん屋根が目立つ空き家の庭に着いた。夏の終わり頃、プランターに植えて置いたチューブニンニクの蓋が発芽し、すっかりチューブニンニクが成っていたので収穫する。今度は罠の方を確認しにいく。君たち読者には特別に罠の設置方法を教えてあげよう。本当は将来セミナーを開いた時に紹介するつもりだったとっておきの方法だ。ありがたく思ってほしい。感謝はどうか気持ちやらいいねやら無償のものでなく金で示してくれ。まず、地面に460円(税別)を置く。そして段ボールを組み立て、釣り糸を括り付けて置いた木の枝で支える。うーん? なんて書けばいいんだ? なんかこう、上手いこと、いい感じに木の枝が倒れると段ボールがいい感じに460円(税別)に収まるように設置するんだ。詳しい手順などを示したガイドブックはいずれ発売しよう。500円くらいで。おっと話を戻そう。そのまま近くの茂みに身を潜め、獲物が来るのをじっと待つ。こんな都会の中心にかかるような獲物がいるのかって? 都会ならではの獲物がかかるってもんだ。ほら、きたきた。あれだ。獲物が丁度お金と交わる瞬間に釣り糸を引くっ! よし、かかったぞ。これが都会の幸、コンビニラーメン(レンジでチンするタイプのやつ)だ。460円(税別)は餌として無くなってしまうが、ラーメンが無料で手に入る。では早速この買って……いや狩ってきたラーメンとこのニンニクチューブを使って料理していこう。料理手順は簡単。チューブニンニクを全て乗せるだけ! That’s easy! 公園のベンチに腰掛け、ちゅるちゅる麺を啜る。うまい。うまいの味がする。チラチラと公園を抜けていく空気が怪訝そうに俺を見てくるがもう慣れつつある。都会の人口は、個性という非常に小さな箱に収まるはずもなく、ダラダラと鼻水みたいに溢れ出す。溢れ出したモノは行き場を失い無へと帰す。帰したモノの持ち主は他の個性と同化し空気となる。生き残り、個性を確立したマイノリティは、空気を吸い、吐き出しを繰り返して、今日という日を過ごしてゆく。それが都会サバイバル。この苛烈な世を生き残るにはひたすらに今を生きなければならないのだ。そうサバイバル2日目の勘が言っている。ポケットからスマホを取り出し、標的の在庫確認を始める。2日目ってどういうこと? あのチューブニンニクは夏から仕掛けてたんじゃないのって? そんなわけないだろ。チューブニンニクの蓋なんて植えても雑草くらいしか生えねぇよ。それに家だってちゃんとある。ないのはしょくだ。職であり、色であり、食。開いたホームページにデカデカと書かれた大量再販通知を見て俺は泣いた。

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