第2話 勉強と母親





 僕は帰宅すると、早速数学の勉強を始めた。

 中学校のテスト勉強ではない。

 内容は高校の範囲である。


 ぶっちゃけ学校で教師に教わる必要はない。

 高校レベルの勉強なら、教育系ユーチューバーが学校の授業の五倍は分かり易い授業を無料で配信している。

 聞き逃したところは巻き戻せるし、眠たくなれば一時停止して昼寝もできる。

 書店で参考書と問題集を買い、分からないところはググる。

 教科書レベルの問題なら知恵袋に解答が上がっている。


 英語は毎日勉強する。

 スマホに語学アプリを落としてリスニングをする。

 最近は欧米のニュース動画も見ている。


 普通でないことは分かっている。

 全国の中学生の中で視れば、僕は恐らく学力は上位クラスだろう。

 なぜ、このようなことをしているのか……。


「峻也~。ごはんよ~。下りてきなさ~い!」


 一階から母の呼ぶ声がした。


「は~い!」


 父はまだ帰宅していなかった。


「今日も残業だって」


「ふ~ん」


 夕食を僕と母さんの二人で食べる日も多い。


「今日もちゃんと勉強してるわね。えらいわ……」


「うん……」


「何度も言うけどね、中学校を出たら、高校ってところに行くの。それで、高校を出たらね、東大ってところに行くの。それでね、東大をでたら、公務員になるのよ。わかった?」


「うん」


 東大で公務員ねぇ~。

 公務員もピンキリだと中学生の僕だって知ってる。

 多分、地元の市役所じゃぁ満足してくれないだろう。

 過去にも母に反論を試みたことはあるが、すると声を荒げて叫びだすので今はもう適当に返事をするのみにとどめている。


 昔から、大学に行け、勉強しろと狂気じみてうるさい母であったが、とある一件以来それに拍車がかかった。

 一昨年、父親がリストラされたのである。


 元々、車庫付きの二階建て一軒家に、有名大学出身の旦那の稼ぎだけで悠々と暮らしていることがステータスだった、僕の母さん。

 しかし、近年の不景気のあおりを受けて父の会社が業績不振になった。

 そして、父は関連会社に出向することとなった。

 収入も以前ほどは見込めなくなった。


 それ以来、しばしば夫婦喧嘩を起こすようになった。

 僕も内容はあまり聞いていないが、住宅ローンがどうの、保険がどうのと言っていたので、要は金だろう。

 母はパートに出るようになった。

 わざわざ自転車で40分もかかるところで事務員をしている。

 ご近所さんにはパートに出ていることをほとんど明かしていない。


「ごちそうさま」


 洗い物をする母を背に部屋へ戻る。


「明日は一日仕事入れたから、お昼は冷蔵庫から出してレンジを使いなさい。六時くらいに帰って来るから」


「わかった」





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幼馴染の美少女と普通に交際してるだけの僕のお話。 しばらく疎遠になっていた幼馴染と再びヨリを戻して付き合い始めた中学生バカップルの甘々日誌! ————— @blondearistocratgirl

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