置き場3

味噌煮込みうどんが食べたい

・・・

放課後の教室。

クラスメイト達のほとんどが部活動や、友人と遊ぶために教室から立ち去る中、2人の生徒が教室に残っていた。

ある生徒は落ち着きがなく、自分の髪をしきりに触っている。

そんな彼女をもう一人の友人らしき生徒が見かねて声をかけた。


「さっきからずーっと髪の毛いじっているけど、何かあったの? 一日中、上の空って感じだったし」

「そ、そう? 気のせいだよ」

「ウチが言うんだから間違いないってば。花音のことだから何かあったんでしょ、話してみなよ」

「正直に話しても怒ったりしない?」


花音と呼ばれる生徒は恐る恐る友人らしき人物に尋ねる。

それに対して、花音の友人である京は落ち着いた様子で答えた。


「もちろん。あんたの親友なんだから当たり前じゃん」

「そっか……。私さ、高校を辞めてバスターになろうと思うんだ」


花音がそう言うと、京は一瞬、天井を見上げる。

そして軽くため息をついてから、再び花音に視線を戻す。

こいつ、マジだわ……と。


「本気で言ってんの?」

「本気だよ」

「ウチが説得してもその考えを直す気はない?」

「うん」

「はぁ、こうなった時の花音は言う事聞かないのはウチが何より知ってるし」

「じゃあ、バスターになることを認めてくれるの?」

「別に良いんだけどさ、なんだかなぁ」


そう答えつつもまだ納得のいかない様子の京だった。

花音はバスターになる考えを変えるつもりはない、と答えている。

詳しく話を聞こうにも教室だと、周りの生徒や教師の目もある。

何処か話の出来る場所に変える必要があると考えた。


「とりあえずファミレス行こう。今日はウチの奢りでいいから」

「でも妹や弟たちが……」

「こいずみ園の園長さんには後で話通しておくから心配しないで」

「京がそう言うなら」



そして場所を学校からファミレスへと移し、京は先ほど花音が話していた内容について問いかける。


「いきなり高校を辞めてバスターになりたい、って言いだすからには理由があるんでしょ」

「ほら、私に弟がいるって前に話したよね。れー君っていうんだけど」

「れー君……? あー、花音が溺愛している可愛い弟君のこと? その子がどうしたの」

「この間、園長先生から呼び出されて、れー君についての手紙を渡されてね。一昨日の朝、レターボックスも渡してくれたの」

「もしかして学校休んだのは……」

「そう、それが原因」

「体調不良で休むって言うから心配したんだよ。ほら、この時期は熱中症が流行ってるし」

「えへへ、今までのれー君からの手紙をずっと読んでいました」


京は眉間に手を当て、しばらくの間動かずにいた。

心配していた自分がアホだった。事前に伝えてくれれば心配することなんてなかったのに、と。

そういえば店に入ってから何も注文していないことに気づく。

花音の分も含めてとりあえずドリンクバーを注文した。


「まあいいわ。休んだ理由がそれで安心した」

「ごめんね、心配かけちゃって」

「良いの、特異犯罪に巻き込まれたとかじゃなければ。その愛しのれー君とやらは今どこに?」

「N市にいるって手紙には書いてあった」

「じゃあ会いに行けば良いでしょ」

「ハウンドドッグからストレイドッグに転身したし、いつでも会えるんだけどねー。でもただ会うんじゃなくて、私はずっとれー君の傍にいたいなって」


そう来たか。

ずっと傍にいたいって、それは告白では?

そんな真剣な顔で言われてしまったら、バスターになるのを諦めろだなんて言えない。

一旦、落ち着こう。その方がいい。

京はドリンクバーに向かい、自分が飲む分と花音が好きなメロンソーダをグラスにそれぞれ注ぐと席へ戻った。

そして自分の分であるアイスティーを一口飲んでから、次になんて言うべきか迷っていた。

親友としてはバスターになることを応援したい。しかしバスターとは常に危険と隣り合わせの職業だ。

危険度の高い特異犯罪者と戦えば最悪、どうなるかなんて一般人ですらわかる。

前からテレビやネットのニュースでその危険性を嫌になるほど知っているからだ。

こいずみ園の園長さんだって絶対反対するに決まっている。

花音には申し訳ないが、バスターを諦めるように―――


「京はさ、私がバスターになるの反対? それとも賛成?」


説得しようとした瞬間、花音が質問を投げかけてきた。

学校にいる時にも同じ質問をされた気がする。

その時は別に構わないなんて言ったが、正直なところ、京としては大反対だ。

親友を危険な場所に向かわせたくないし、何より死なせたくない。

そもそも花音は嘘が嫌いだ。

だったら下手に気遣うより、素直に思ったことを言わせてもらおう。


「大反対に決まってる。親友が死ぬかもしれない職業に就こうとしてるのよ?」

「あははー、やっぱりかー」


イタズラがバレた子どものように笑う花音。


「笑い事じゃなくて、ウチは真剣に言ってるんだけど」

「わかってる。常識的に考えれば友達が危ないことをしようとしていたら、誰だって止めるもんね」

「だったら―――」


京の訴えに花音は言葉には出さず、首を横に振る。そしてこう答えた。


「8年間、れー君に会うのをずっと我慢してきた。彼に会うためにはMDCのキャリアになって、その権限を使うしかないと思ってたの。でもストレイドッグのバスターになれば遠回りしなくても済む。チャンスは今しかないんだよ」


いつもはおどけた様子を見せている花音だが、今回は違った。

そこまで真剣に物事を考えているのであれば、こちらも花音に対して真摯に向き合わなければならない。

花音が弟分であるれー君という人物に会うために、今までずっと悩んでいたなんて知らなかった。


「……そっかあ、そう来たかぁ。真面目な顔で言われたら反対なんてもう言えないわ」


先ほどは反対だと言ったが、前言撤回だ。

親友として言えることはただ一つ、それは―――


「花音がバスターになるのを全力で応援するよ」

「ほ、本当に?」

「嘘をつくのは嫌いだから。その代わり条件がある」

「……」


ゴクリ、と花音が唾を飲み込む音が聞こえてくる。


「1つ目、バスターになっても定期的にウチと連絡を取り合うこと」

「2つ目、こいずみ園の園長さん、弟や妹たちに顔を見せること」

「3つ目、絶対に死なないこと」


京は一度、深呼吸をしてから再び花音にもう1つの条件を出した。


「4つ目、バスターになるって言ったからには絶対あきらめないで。この4つを守れるなら何があってもウチは花音のこと守る」




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