第12話 旅立ち③
ビーストキマイラを倒して一週間程が経った。
「よっ…はっ………ほいっと…………」
今俺の目の前には二匹の獣がいる。
「グガアッ!」
「シャッシャー!」
大きなトラと大きなヘビ………そう、ブラッドタイガーとジャイアントスネークの二匹だ。
その後方にはビーストキマイラとデスパイダーもおり、俺と二匹の戦いを見守っている。
何故この様な状況になっているのかというと、実はこの四体には高い知能があり、俺が倒した後にそれぞれの縄張りに向かった。
そこで俺の組手の相手になって欲しいとお願いしたという訳だ。
一度倒したからなのか、四体は凄く聞き分けが良く、俺の命令に従順だ。
(いや~本当に、この森に来たばかりの時には考えられなかった光景だな)
「ガアッ!」
「んおっ!?」
俺がジャイアントスネークの突進を回避した時、着地の瞬間を狙って真空の刃が飛んで来た。真空の刃は地面をえぐり、周囲の木々を縦に真っ二つに切る。
俺は瞬時に、足にだけ身体強化魔法をかけて横へ飛ぶ。最近発見した身体強化魔法アンリミテッドの応用だ。
「何だよそれっ!そんな技隠してたのか!」
俺は思わず笑みがこぼれる。
以前戦った時はほとんど技を見ることが出来なかったから、少し興奮してしまう。
「いいぞ!凄くいい!」
体の奥底から溢れて来る高揚感は、恐らく戦闘民族としての本能だろう。
最初は戦い方も知らなかったのに、今では戦いの刺激を求めるようになってしまっている。異世界から転生したとはいえ、やはり俺にも戦闘民族の血が流れているんだな。
「さぁ…もっともっと……お前たちの本気を見せてもらうぞ!」
そうして俺は約一か月の間、四体の魔獣と手合わせをしていた。
◇
そして、旅立ちの日がやって来る。
「そうか、もう旅に出るんやな……」
「ああ、勇者の使命ってのはよく分からんが、俺はこの世界を見て回りたいんだ」
「アッシもアニキについて行きやすぜ!」
マグナは俺の旅に同行してくれるみたいだ。マグナ曰く、相棒として旅について行くのは当然らしい。はっきり言って、マグナが一緒だとかなり心強い。
リルは俯き一瞬寂しそうな顔を見せるが、すぐに顔を上げて俺の方へ向く。
「ガハハッ!そうかそうか!確かに、ここにおってもこれ以上強くはなられへんしな。外の世界に出て、色んなことを学んで、経験してき」
リルは心底嬉しそうな笑顔で俺にそう告げる。
きっと、師匠として弟子の独り立ちは嬉しいんだろう。
「ええか兄ちゃん……もし途中で辛くなったりしたら、いつでも帰ってきてええんやで。この場所は兄ちゃん達の家でもあるんやからな」
「リル……」
リルの言葉で、目頭が熱くなる。思わず溢れそうになる涙をこらえるのが大変だ。
この魔の森で目覚めて、本当に色んなことがあった。マグナやリルやモップと出会えて本当に良かった。多分、俺一人だったら生きてはいなかっただろう。
「ありがとうなリル!俺、本当にリルに出会えて良かったよ。本当にありがとう」
「リルの旦那!色々とお世話になりました!」
そう言い、俺とマグナは右拳をリルに向け突き出す。
そんな俺を見て、リルも右拳を前に出し、俺とマグナの拳と合わせる。
「さぁ……兄ちゃん達、行ってきな!」
「ああ!それじゃあ、行って来る!」
「リルの旦那!お元気で!」
こうして俺とマグナは魔の森を旅立ち、まずは西のバルガス連合国へと向かうのだった。
◇
「ふぅ………兄ちゃん達、行ってもうたな……」
リルはリトラ達を見送った後、そう呟く。
(兄ちゃんと出会った時はあんなに小さかったのに、あんなに大きく育ってくれて、ホンマに嬉しいわぁ)
リルは腕を組みながらうんうんと頷き、住処へと帰っていく。
「ん…?待てよ……そういえば、モップの姿が見えへんけど……」
その時、リルの脳裏に一つの考えがよぎる。
モップはリトラに大変懐いていた。ということは……
「あ~、しもた……多分兄ちゃん達に付いて行ってるな……」
リルは空を見上げ、頭をポリポリとかき、しばらく考え込む。
やがて大きなため息をつき、再び住処へと歩き出す。
「まぁ、兄ちゃん達なら安心して預けれるか。それに、あの子にとってもいい経験になるしな」
リルは少し寂しそうに言い、その場を後にするのだった。
異世界転戦〜俺、戦闘民族に転生しました~ 水餅 @mizumoti
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