第12話 旅立ち②
「そうか、あの二匹に勝ったんか……」
「ア、アニキ……流石ですぜ」
リルの住処へと戻り食事を済ませた後、リルとマグナにブラッドタイガーとジャイアントスネークを倒したことを伝えた。
二人は驚きつつも、心配はしていなかったようだ。
「う~ん…ワイが出した課題も難なくこなせるようになったんか」
「ああ、リルの修行のおかげだな」
「おっ嬉しいこと言ってくれるやん」
リルはそう言うと、照れくさそうに笑っている。
実はリルとの修行はもうほぼ終わっていて、教えられることが無いと言うので課題を出してもらった。
「後はこの森で、一番強いあいつだけやな」
リルの言うあいつとは、かつてリルと縄張り争いをして、怪我を負わせたビーストキマイラのことだ。
子供たちを庇いながら戦ったとはいえ、リルに勝ったというのは相当な強さだろう。
「ビーストキマイラ……今の俺なら勝てるのか?」
俺は思わずリルに問いかける。俺自身、結構強くなったつもりだが、リルが負けたということもあり少し自信がない。
「いやいや、今のアニキなら勝てますぜ!」
「せやなぁ……組手でもワイに勝ったぐらいやし、あいつには勝てるやろな」
二人は何も心配しておらず、ただ俺の勝利を信じてくれているみたいだ。
なら、それに答えないとな。
「よし!」
俺は両頬をパンパンと二回叩き、気合を入れ直す。俺はこの世界の強さの基準は分からないが、この五年間ただがむしゃらに鍛えてきた。その日々を、自分自身を信じてやらないでどうする。
「俺、戦うよ。修行の成果を見せてやる」
二人を真っ直ぐに見つめる。
俺の中にはもう、迷いは無かった。
「ガハハッ!そうか……兄ちゃんなら勝てる。行ってきな」
「アニキ、お気をつけて」
「ああ……行って来る!」
俺はリルの住処を後にし、南の縄張りにいるビーストキマイラの元へと向かうのだった。
◇
「へぇ~こいつが噂の……」
南の縄張りに入ってしばらくすると、大きく開けた場所に出た。俺の目の前には、顔はライオン、足は鷲、尻尾は蛇、そして背中にはドラゴンのような羽が生えている魔獣、ビーストキマイラがいた。
ビーストキマイラの所へとたどり着いた俺は、唸り声を上げているその目の前で準備運動を始める。
戦う前には準備運動は大切だからな。
「グルルルッ………」
ビーストキマイラは突然やって来た俺を見定めるように一定の距離を取りながら警戒している。
「さてと…始めるとするか!」
俺は左手、左足を前に出し、右手を腰に構えてアンリミテッドを発動させる。
臨戦態勢に入った俺を見て、ビーストキマイラは一気に駆け出し、距離を詰めて来た。
「よっ」
俺は右へと飛ぶことでそれを回避、地面を転がり受け身を取る。
「シャッ!」
俺が回避したのを見て尻尾の蛇が嚙みついてくる。
しかし、俺は蛇の懐に入り顔を掴む。嚙まれないよう注意しつつ、後ろへと大きくぶん投げる。
「う…おおぉぉぉおおお!!!」
アンリミテッドにより強化された腕力でビーストキマイラを背負い投げし、全力で地面に叩きつける。
「グ…グゲ……」
「さぁ…もっとかかって来いよ」
俺は構えなおし、ビーストキマイラを見る。――――――だが、中々起き上がらないことに気が付いた。
「えっ……嘘だろ………」
俺は恐る恐る近づく。
やがて顔のライオン部分に着くと、泡を吹いて白目をむいていることに気がついた。
一撃……一撃だった……リルに勝利したという割には拍子抜けしたが、まぁ…それだけ俺が強くなったということだろう。
――――――とにかく
「俺の勝ちだぁぁあああ!!!」
俺は両手を上げて喜ぶ。
リルとの修行、最後の課題が終わった。そして、俺がこの森から出るのが近づいていた。
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