第12話 旅立ち①

「あれからもう五年も経つのか……」

 俺は準備運動で体をほぐしながらそう呟く。

 俺がこの世界、グランディアへ来てからおよそ五年、色々なことがあった。

「何か懐かしいな……お前たちも」

 目の前の存在に苦笑しつつも、目を離さずに準備運動を続ける。

 地面を揺らし、周囲の木々をなぎ倒しながら争っている二匹の魔獣。ブラッドタイガーとジャイアントスネークは、俺という獲物を取り合って争いを続ける。

「あの時は震えるだけだったけど、リルのおかげで随分と自信がついたな」

 転生してすぐは、訳も分からず二匹の争いに巻き込まれて、吹き飛ばされたんだよな。

 いや~本当に懐かしい。

「さてと…今日はリベンジマッチだ。と言ってもすぐに終わらせるが」

 俺の言葉に反応は無く、二匹は大暴れしている。そんな二匹を見てため息をつきつつ、身体強化魔法アンリミテッドを発動させる。

「よし!行くか」

 俺は勢いよく地面を蹴り出し、ブラッドタイガーの懐へと潜り込む。

 そしてその顎へと回転を加えた蹴りを放つ。

「―――グガゴッ!?」

 ブラッドタイガーは突然のことに対処出来ず、宙を舞い後方へと吹き飛んだ。

 そしてそのままピクピクとしながら動かなくなった。

 続けてジャイアントスネークの方へと向き直る。

「シャッ!シャーーーッ!」

 ジャイアントスネークは突如出て来た俺に警戒しつつも、大きな口を開けて突進してくる。

 口からこぼれる毒液は、周りに飛び散り、草木を枯らしてゆく。

「まぁ、そう来るよな」

 俺はアンリミテッドにより強化された脚力で飛び上がり、ジャイアントスネークの突進を避ける。

 そして、魔力で空中に足場を形成する。リルとの修行で会得した新たな魔法、空中跳躍エア・ハイクは魔力で魔法陣の足場を作り出す無属性の魔法だ。

 俺は足場を勢いよく蹴り、ジャイアントスネークの頭へと飛び上がる。

「悪いな……俺の勝ちだ」

 そしてその勢いのまま力を込めた右ストレートをお見舞いする。

「シャガッ!?」

 ジャイアントスネークはその口から泡を吹き、巨大な体をばたつかせた後、動きを止めた。

 俺は動かなくなった二匹を見て、嬉しさがこみ上げて来る。

「―――よっっしゃあぁぁ!勝ったぞ!」

 思わずガッツポーズを取り、大きな声で喜んでしまう。

 あの頃とは違う。ただ震えて、逃げることも立ち向かうことも出来なかったあの頃とは。

 今日この魔獣二匹に勝利して、改めてそう思った。

 戦うたびに強くなる戦闘民族だということもあるだろうが、やはりリルとの修行の成果が大きい。

 本当に、あのお人好しの兎……ゴリラ?には感謝だな。

「さ~てと、帰るか」

 俺は大きく伸びをして、帰路につく。きっとリルとマグナが美味いご馳走を用意して待っているに違いない。

 そう考え、俺は早足でリルの住処へと向かうのだった。

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